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「体験格差」にモヤモヤするあなたへ──「こども冒険バンク」事業責任者の前田さんに10の疑問をぶつけてみた

「体験格差」にモヤモヤするあなたへ──「こども冒険バンク」事業責任者の前田さんに10の疑問をぶつけてみた

#体験格差 #フローレンズラジオ

社会課題をさまざまなレンズで深く見つめ、理解を深めていく音声コンテンツ「フローレンズラジオ」。

シーズン3では、「体験格差」をテーマに全5回にわたってお届けしてきました。

「体験格差」と聞くと、

  • 習い事をたくさんさせるべきという話?
  • お金がない家庭は不利ということ?
  • 体験の多さを競う話にならない?
  • そもそも「格差」という言葉を使う必要ある?

そんな疑問や違和感を抱いた方もいるかもしれません。

実は、このシリーズの聞き手であるわたし、清野も、「体験格差」という言葉にいまいち納得できていなかったひとりです。

そこで最終回は少し趣向を変えて、「半径5mのモヤモヤ」を集めてみることに。

AIに「体験格差について、多くの人が感じそうな疑問を10個挙げて」とお願いしたところ、思わず「それ、わたしも聞きたかった!」とうなずく質問がずらり。

今回はその10の疑問を、こどもたちがさまざまな大人や体験と出会うきっかけをつくる取り組み「こども冒険バンク」の事業責任者、前田晃平さんにぶつけてみました。

体験格差という言葉にモヤモヤしている人も。
なんとなく気になっていたけれど、どこか捉えにくさを感じている人も。
もちろん、体験格差という新しい社会課題に強く共感している人も。

ぜひ一緒に考えてみませんか?

聞いた人 清野 友花

聞いた人 清野 友花

認定NPO法人フローレンス広報。メーカー系商社で人事を経験後、2019年入職。
フローレンズラジオのパーソナリティを担当。こどもを持たない当事者としての視点を大切にしている。図鑑を読むのが好き。

答えた人 前田 晃平

答えた人 前田 晃平

認定NPO法人フローレンス こども冒険バンク事業責任者。リクルートでの新規事業開発や、内閣官房・こども家庭庁での勤務を経て現職。体験格差の解消に取り組む。著書に「パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ」(光文社)。noteでは、社会課題のことからライフハックまで幅広く発信している。2児の父。趣味は空手。

Q1.「体験格差」という言葉を使うと、こどもの遊びや体験が競争みたいにならない?

清野

体験格差という言葉を使うと、こどもの遊びや体験が勝ち負けの競争みたいにならないですか?体験の多い・少ないの量を比べるだけで、親同士やこども同士が「もっと体験させなきゃ」「もっと体験しなきゃ」と焦ってしまうんじゃないでしょうか。

前田

悩ましいですね。

まずお伝えしたいのは、「もっと体験させなきゃ」と親が焦ったり、こどもが焦ったりすることは、僕たちが考える解決策とは最も遠いところにあるということです。

だからこそ、正直なところ、「体験格差」という言葉には僕自身も迷いがあります。

僕たちは、体験格差を「自己決定の機会の格差」だと考えています。

どれだけたくさんの体験をしたかではなく、こどもたちが自分の「好き」や「やってみたい」に出会い、自分で選べる機会があるかどうか。その違いに目を向けたいんです。

前田

実際に、別の表現を考えている団体や仲間もいますし、この言葉そのものをより良い意味に育てていくのか、あるいは別の言葉に変えるのか、今も模索しています。

まずは、この新しい社会課題に関心を持ってもらうことが大事です。

そして、どんな言葉がふさわしいのかも含めて、社会全体で一緒に考えていけたらいいなと思っています。

Q2. お金のかかる習い事や旅行だけが「良い体験」?

清野

「体験が多い子がすごい能力が身につく」って本当にそうですか?お金のかかる旅行とか習い事が特別に良い体験で、近所の公園で遊ぶことや、家で料理をすることは体験として価値が低いんでしょうか。体験の質ってどう決まるんですか?

前田

そんなことはありません。

僕たちが考える体験は、習い事や旅行だけではなく、日常の遊びも、公園で過ごす時間も、家で料理をすることも含まれます。

どの体験がどの能力に効くのか、という単純な話でもありません。

大切なのは、その子自身がワクワクすること。

難しく考えすぎず、こどもたちが「やってみたい」と思うことを応援できる社会であればいいと思っています。

Q3. 体験が少ないと将来不利になるの?

清野

「体験が少ないと将来お金持ちになれない」なんて聞くけど、それはこどもたちにプレッシャーかけすぎじゃないですか?体験がないと損するよとか、かわいそうな子だねみたいな言い方で、体験の少ないこどもの自信を奪うことになりませんか?

前田

「体験が少ないと将来お金持ちになれない」といった世間の言葉を、そのまま信じないでほしいと思います。

体験の量と幸福はイコールではありません。それよりも、自分らしく生きられることのほうが大切です。

Q4. こどもに体験をさせられないのは、親の責任?

清野

経済的に厳しい家庭に対して、「もっと工夫して体験させましょう」と言うことは、親を追い詰めてしまいませんか?

前田

その懸念はよく分かります。

そもそも体験は、お金をかけなくてもできるものがたくさんあります。

一方で、ひとり親家庭や障害のあるお子さんがいるご家庭など、さまざまな事情によって「本当はやりたいけれどできない」という状況が生まれることもあります。

それを親の責任として考えるのではなく、社会全体で支えられないだろうか。

それが僕たちの問題意識です。

Q5. 貧困の原因が、体験の少なさ?「体験格差」は、貧困問題の言い換えでは?

清野

「体験格差」という言葉を聞くと、本当は貧困や家庭環境の問題なのに、「体験の少なさ」という形で語り直しているだけのようにも感じます。

前田

そこは誤解されやすいところです。

これは、そもそも「体験」をどう捉えるかによって見え方が変わる話なんです。

もし体験を「習い事」や「旅行」のような、お金を払って得るものだけだと考えると、「貧困だから体験が少ない」という話になってしまいます。

僕たちは、友達と外で遊ぶことも、地域の人と関わることも、家で料理をすることも、何気ない日常の中で起きることも、すべて体験だと思っています。

前田

そして、こどもの幸福やウェルビーイングという観点で見ると、むしろそうした日常の体験こそ大切という話もあります。重要なのは、「その子が自分らしく育っていけるか」ではないでしょうか。

「お金がないと体験ができない」という理解になってしまうと、本質を見失ってしまう危険がある。僕はそこをすごく心配しています。

前田

ただ一方で、経済的な事情や家庭環境、障害の有無など、さまざまな社会的要因によって、こどもが本当はやってみたいと思っていることに挑戦できない状況があるのも事実です。

もちろん、すべての願いを叶えなければいけないという話ではありません。

でも、「やってみたい」という気持ちがあったときに、それを応援してくれる大人や社会があるほうが素敵だと思うんです。

だから僕たちが目指したいのは、お金で体験を買う社会ではなく、こどもたちの「やってみたい」を支えられる社会なんです。

Q6. そもそも「格差」という言葉を使う必要ある?

清野

人によって体験が違うのはあたりまえなのに、わざわざ「格差」って言葉を使うと、多様な生き方を否定しているみたいに聞こえませんか?

前田

「格差」という言葉には強さがありますし、違和感を持つ人がいることも理解できます。

ただ、この言葉があったからこそ、これまで見えにくかった課題が社会の中で議論されるようになった面もあります。

最近では「体験格差」ではなく「体験保証」という表現も出てきていますし、どんな言葉が適切なのかは、これからも社会全体で考えていく必要があると思っています。

Q7. 競争社会を前提にしすぎてない?

清野

体験格差をなくして公平な競争を実現しよう、という話に聞こえることがあります。競争社会を前提にみんなで同じスタートにしましょうとするより、競争自体を減らした方がいいんじゃないでしょうか。

前田

僕も競争は減らしたほうがいいと思います。

ただ一方で、受験や進学など、現実には競争が存在していることも事実です。

でも、みんなが同じ土俵で競争する必要もないですよね。

むしろ、その子がどの土俵に立つのかを選べることのほうが重要だと思っています。

例えば、ものづくりが好きな子がいたとして、その子が一般的な受験競争で苦しむよりも、自分の得意な分野に進んだほうが力を発揮できるかもしれません。

前田

でも、そのためにはまず、自分が何に興味を持ち、何が得意なのかに気づく必要があります。その「きっかけ」をつくるのが体験の役割だと思っています。

だから僕たちが考える体験格差は、競争に勝つための話ではなく、自分らしい生き方を選ぶための話なんだと思っています。

Q8. 体験を能力開発の手段として見すぎてない?

清野

最近は「非認知能力が育つ」など、体験の効果ばかりが語られる気がします。でも、本来体験は楽しいからやるものですよね。効果や成果ばかりに注目すると、純粋な楽しさが失われてしまわないですか?

前田

僕も基本的にはその通りだと思います。

こどもは非認知能力を伸ばそうと思って遊んでいるわけではありません。「将来のためになるから体験しよう」なんて考えているこどもはほとんどいないと思います。

大事なのは、その子自身がワクワクすることや、やってみたいと思う気持ちです。

前田

ただ一方で、社会として制度や仕組みを考えるときには、エビデンスも必要になります。

なぜ体験が大切なのか、なぜ社会として支えるべきなのかを説明するためには、共通の土台となるデータや研究があったほうが議論しやすいからです。

だから、「非認知能力」という考え方自体が悪いわけではないと思っています。

前田

大切なのは、それを誰に向けて使うのかということです。

こどもに向かって「これは非認知能力が上がるからやりなさい」と言うのは違う。

でも、社会や行政が仕組みを考えるときの共通言語としては意味がある。

その違いを意識することが大事なんじゃないかなと思っています。

Q9. お金で体験を買う文化を後押ししてない?

清野

体験を重視することが、結果的に「もっとお金をかけて体験を買おう」という流れを強めてしまわないでしょうか。

前田

その危険性はあると思います。

もちろん、お金をかけた体験にも価値はありますし、それによってこどもの世界が広がることもあります。

ただ、僕は大人が用意した体験だけでこどもが育つわけではないと思っています。

前田

本編でもお話ししましたが、こどもたちが自分たちでルールをつくり、遊びを発展させたり、試行錯誤したりする時間には、大人が設計したプログラムとは違う価値があります。

だから、お金をかけた体験を増やすことだけが解決策ではありません。むしろ、こどもたちが自分で考え、自分で遊べる余白を残すことも同じくらい大切だと思っています。

Q10. 地方の日常や自然体験が軽視されてない?

清野

都市部の習い事やイベントばかりが注目されて、地方の自然体験や日常の遊びが軽く見られている気がします。地域や家庭によってできる体験は違うのに、一律に「体験が足りない」と言うのはおかしくありませんか。

前田

僕もそう思います。

例えば都市部に住んでいる人が、お金と時間をかけて自然体験をしに行くことがありますよね。でも、山や海の近くで暮らしているこどもたちにとっては、それが日常だったりする。

そう考えると、自然の中で暮らすことも立派な体験ですし、都市部の体験より価値が低いわけではありません。

一方で、東京のような大都市には、体験の選択肢や出会える機会が集まりやすいのも事実です。

だから、「地方だから体験が豊か」とも、「都市部だから恵まれている」とも、一概には言えないと思っています。

前田

大切なのは、「どちらが上か」を比べることではなく、それぞれの地域や環境の中にある体験の価値を認識することです。

そして、その違いが地域ごとの特色なのか、それとも経済状況や家庭環境、障害の有無などによって、本来できるはずの体験が制限されている状態なのかを分けて考える必要があると思っています。

体験は人によって違うし、地域によっても違う。

その多様さを前提に考えることが大事なんじゃないでしょうか。

「体験格差」とは、何の格差なのか

10の問いを通して見えてきたのは、フローレンスが考える「体験格差」が、単純な習い事の数や体験の多さの話ではないということです。

前田さんは、シーズンを通して何度もこう語ってきました。

「体験格差とは、自己決定の機会の格差だと思っている」

前田さんは、体験を「種」に例えます。

種を渡すことはできる。

でも、その種が芽を出すのか。
どんな花を咲かせるのか。
あるいは咲かないのか。

それはこども自身に委ねられている。

だからこそ、体験を与え続けることがゴールではなく、こどもたちが自分らしく育っていける環境をつくることが大切なのだと言います。

わたしたちにできること

この話を聞いて「自分にできることは何だろう」と思ったとき、何から始めればよいのでしょうか。

前田さんは、2つのメッセージを投げかけます。

まず、子育て中の保護者に向けて。

今の親たちは、かつてないほどこどものために頑張っています。こどものためを思い、時間を使い、お金を使い、時には自分を後回しにしながら日々を過ごしている。

だからこそ、もう少し肩の力を抜いてもいいのではないか。

こどもの幸せを願うからこそ、「もっとしてあげなきゃ」と思ってしまう。

けれど、ときには勇気を持って手を引くこと。
こどもが自分で考え、自分で遊び、自分で失敗する余白を残すこと。

それもまた、大人にできる大切な役割なのかもしれません。

そして、子育てをしていない大人たちにも。

こどもたちの体験は、親だけによってつくられるものではありません。

近所で見かける大人。仕事をしている大人。地域にいる大人。

こどもたちは、さまざまな大人との出会いを通じて、「こんな生き方もあるんだ」「こんな仕事もあるんだ」と世界を広げていきます。

だから、特別なことをしなくてもいい。

こどもたちをそっと見守るような関わりをする大人が少しずつ増えていくことが、こどもたちの可能性を広げるきっかけになるのです。

シーズン3を終えて

フローレンズラジオシーズン3では、「体験格差」という言葉を入り口に、

ブルデューの理論。
こどもの余白。
地域とのつながり。
親の撤退。
そして、自己決定の機会。

さまざまな角度から、このテーマを見つめてきました。

正直なところ、この社会課題をどう解決していくのか、まだ明確な答えは出ていません。

それでも、このシーズンを通じて見えてきたことがあります。

それは、「体験を増やす」という話ではなく、こどもたちが自分らしい「好き」や「やってみたい」に出会い、それを育てていける社会をどうつくるか、という問いだったということです。

体験格差とは、社会のありようそのものに関わるテーマなのかもしれません。

シーズン3をここまで聞いてくださった皆さん、ありがとうございました。

また次のシーズンでお会いしましょう。


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