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フローレンスが「それでも」生成AIを使うと決めた理由

フローレンスが「それでも」生成AIを使うと決めた理由

#ディレクターズボイス

ふだんの仕事の中で、あるいはひとりの生活者として。報道を目にしたとき、制度の動きに触れたとき、わたしたちの胸にふと立ち上がる感情や問い――。

そんな「わたしの声」をことばにして届けるのが、この「Director’s Voice」です。フローレンスのディレクターたちが、それぞれの視点で、いまの社会に対して思うことをつづります。

今回は、ソーシャルテック担当ディレクターの橋本が、生成AIの背景にある課題と、それでも使うという判断について語ります。

「フローレンスが、それを使うの?」

フローレンスは2026年10月、スタッフが業務で生成AIを使うためのルール「生成AIガイドライン」を改定しました。これから組織として、生成AIの活用を広げていきます。

その方針をスタッフに話した場のアンケートで、こんな声が寄せられました。

「そもそも生成AIを使うこと自体に、ちょっと引っかかる」

そして「社会の問題に声を上げるフローレンスが、そういうものを使うの?」という問いです。

今回は、この問いにわたしがどう向き合い、どう判断したのかを書いてみます。

生成AIに向けられている懸念

寄せられた声に挙がっていた論点は、大きく3つありました。報道などで目にされた方もいるのではないでしょうか。

1つめは著作権です。日本の著作権法では、AIの学習のために著作物を使うことは原則として認められており、つくり手からは、許可も対価もなく作品が使われることへの懸念が示されてきました[1]。政府は2026年8月、学習データの開示などを事業者に求める指針を決めましたが、法的な拘束力はありません[2]。

2つめは環境への負荷です。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの電力消費量が2024年の約415TWhから2030年には約945TWhへと2倍以上になり、いまの日本全体の電力消費量をやや上回る規模になると見込んでいます。増加のいちばんの要因はAIだとされています[3]。

3つめは、データセンターが建つ地域で暮らす人たちへのしわ寄せです。アメリカで2026年に行われた世論調査では、自分の住む地域にAI向けのデータセンターが建つことに71%の人が反対しました。反対の理由には、水や電力の使いすぎ、騒音などの環境汚染、交通量の増加といった暮らしへの影響が挙がっています[4]。便利さを受け取る人と、その負担を引き受ける人が一致しない、という構造的な問題です。

こうした課題があることを、まずしっかりと受け止めなければいけないと思っています。見ないことにはできない問題です。

見据えたいのは「AIが広まった先の課題」

そのうえでわたしたちは、それでもAIを活用するという判断をしました。

フローレンスが向き合っていくべきなのは「AIが広まった先の社会の課題」でもあるのではないか、と考えたからです。

AIによって、多くの仕事のあり方が変わっていくと見られています。国際労働機関(ILO)は2025年に、世界の雇用のおよそ4分の1が、生成AIの影響を受けうる職業にあると推計しています。影響は事務の仕事や、女性の仕事に大きく出ると指摘しています[5]。

その変化は、親子の暮らしにも及ぶはずです。仕事内容が大きく変わっていく中で、生活の苦しいひとり親家庭が増えるかもしれない。「人手が足りないなら、保育は全部AIでやればいい」という意見が社会に出てくるかもしれない。家庭の中でも、子育てにAIがどう関わるのかが大きな問題になってくるかもしれない。

AIが社会に広まっていく流れは、おそらく止まらないでしょう。利便性や経済性が優先され、環境や権利の問題が後回しにされている現状には、歯がゆさも感じています。それでも、わたしたちが使わないことを選んだからといって、その流れが変わるわけではありません。そしてフローレンスがいちばん力を発揮できるのは、技術や産業のあり方そのものを変えることよりも、その変化の中で親子の暮らしに起きる問題に向き合うことだと考えています。

AIがあたりまえになった社会においても、親子が直面する新しい問題をいち早く見つけ、解決策を生み出していく。それがわたしたちの役割だと考えています。そのためにも、まずわたしたち自身がAIを使いこなし、変化の速さに置いていかれない力をつけなければなりません。だからこそ、AIを全力で活用する。それが、いまのわたしの立場です。

人にしかできないことを、手放さないために

では、どのようにAIを使うのか。いちばん大事にしているのは、人をAIに置き換えるために使うのではない、ということです。

むしろ逆で、人だからこそ出せる価値にこそ、もっと力を注げるようにしたいと考えています。書類をつくる、計算をする、情報をまとめる。こうした事務の仕事は、AIが高いクオリティでこなせるようになってきました。そこはどんどんAIに任せ、生まれた余力を、人と人が関わる場面や、新しい課題を見つけていく仕事に振り向けたいのです。

保育の現場を思い浮かべてみてください。手遊びをする、歌の伴奏をする。そうした一つ一つの行為は、いずれAIにもできるようになるかもしれません。けれど、保育者という存在がこどもと向き合っていること自体の価値は、AIでは代わりがきかないのではないか。わたしはそう考えています。そんな、人が人と関わる場の価値が、これからの社会で意味を増していくのではないでしょうか。

だからこそ「保育は全部AIでやればいい」という声が社会に出てきたときに、それは違うと言える立場でいたいと思います。AIではなく人だからこそできることの意味を理解し、語れるように。そんなことを考えています。

正しさではなく、いまの立ち位置として

と、ここまで書いてきましたが、わたしの考え方が「正しい」と思っているわけではありません。変化の大きい時代です。いまの自分とフローレンスの立ち位置はここにある、ということです。

スタッフからの問いには、こうした考えを返し、話をしました。あわせて、反対の意見も、AIにわくわくしているという声も、どちらも大切にしたいと伝えています。どちらの立場の人もオープンに意見を共有して話し合いながら、みんなで進んでいきたいと思っています。

生成AIをめぐっては、まだ誰も正解を持っていません。迷いながら決めたことも、決めきれていないことも、これからも開いていきたいと思います。

AIが広まっていく社会で、親子の一日いちにちをどう支え、どう良くしていくか。この文章を読んでくださった皆さんとも、一緒に考えていけたらうれしいです。

書いた人 橋本吉央

書いた人 橋本吉央

SEとして金融系システムの開発・導入を経験後、第一子誕生をきっかけに子育てへの課題意識を感じ、2015年にフローレンスへ社内システム担当として入職。コーポレートニュース編集、広報、ファンドレイジング、障害児保育の事業運営を歴任後、2026年にディレクター(執行役員)就任。2度の育児休業も取得。2歳の末っ子のイヤイヤ期に翻弄され読書の時間がなかなかとれないのが悩み。

◎フローレンスが2026年10月に改定した「生成AIガイドライン」の考え方とそれを支える取り組みについてご紹介しています。

出典

[1]文化審議会著作権分科会法制度小委員会(2024)『AIと著作権に関する考え方について』
[2]知的財産戦略本部(2026)『生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード』
[3]International Energy Agency(2025)『Energy and AI』Executive summary
[4]Gallup(2026)「Americans Oppose AI Data Centers in Their Area」(調査期間:2026年3月2〜18日、米国の18歳以上1,000人。反対の理由は、2026年4月1〜15日に米国の18歳以上2,054人を対象に行った追加調査で、反対した人に自由回答で尋ねたもの)ねたもの)
[5]国際労働機関(ILO)(2025)「One in four jobs at risk of being transformed by GenAI, new ILO–NASK Global Index shows」


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