わたしたちフローレンスは、当事者の皆さんの声を原動力に、関連団体の皆さんとともに、「こどもたちのために、日本を変える」ため、さまざまな政策提言を行っており、「骨太の方針」と「こども版骨太の方針」に毎年注目しています。
今年も、6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」(以下、「骨太」)が閣議決定されました。
▼「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針) 政府の基本的な方針を示すもので、政府が重視している課題や予算編成の方向性をまとめたもの |
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さらに、6月6日には「こどもまんなか実行計画2025」(以下、「こども版骨太」)が、この案のとおり決定されました。
▼「こどもまんなか実行計画2025」(こども版骨太) 令和5年12月に閣議決定された、政府全体のこども施策の方針である「こども大綱」に基づき、年単位で取り組んでいく具体的なこども・子育て施策をまとめたもの |
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わたしたちの声を真摯に受け止め、取り組みの重要性を訴えてくださった国会議員の皆さんのはたらきかけもあり、提言がいくつも盛り込まれました。ここまで関わってくださった皆さんに、この場を借りて御礼申し上げます。
今年の骨太・こども版骨太には、新たに「逆境的小児期体験(ACE)」に関する項目が盛り込まれました。
そして、わたしたちが提言を続けてきた「出産等の経済負担の軽減」「保育園多機能化の地域拡大」「こども誰でも通園制度」について明言されました。
さらに、「日本版DBS」「付き添い入院」「医療的ケア児」「こども宅食」「アウトリーチ型の支援」「デジタルを活用した伴走型相談支援」「こどものウェルビーング指標」も、昨年度に引き続き記載されました。
ここからは、今年の骨太の内容について、詳しく解説していきます。
逆境的小児期体験(ACE)
逆境的小児期体験による精神的な問題等の様々なこどもの心の問題に対応するため、地域内での医療機関等での連携による支援体制の整備を促進する。【こども家庭庁】
こども版骨太 p.36 |

フローレンスや三谷はるよ先生(大阪大学)が提言してきた「逆境的小児期体験(ACE)」が、今年度ついに骨太に掲載されました。1990年代から米国で研究が始まったACEの課題に、日本政府がついに着目したということはとても意義深いです。
「逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences:ACE)」は、虐待や貧困、家庭内暴力、親の精神疾患など、こどもの心身に深刻な影響を及ぼす幼少期の体験を指します。
ACEを経験したこどもたちが、なんら支援を受けないまま大人になってしまうと、重度のうつ、貧困、失業、希死念慮、孤独等の様々なリスクを抱えてしまう可能性が高まります。
▼「逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences:ACE)」についての詳細は過去記事を参照

ACEを経験した・しているこどもたちを早期に発見し、医療機関におけるトラウマケアにつなぐことが非常に重要です。
大人になった「ACEサバイバー」への支援を!
さらに、こどもに対する施策だけでなく、過去に虐待等を受けて大人になり、貧困、心身の疾患等で苦しむ「ACEサバイバー」たちに対する支援も忘れてはいけません。日本ではACEサバイバーの支援がほとんど行われていません。ACEサバイバーは、本人がつらいだけではなく、我が子に虐待をしてしまう傾向にもあります。虐待の連鎖を防ぐためにも、ACEサバイバーへの支援施策を検討いただきたいです。
出産等の経済的負担の軽減
妊娠・出産・産後の経済的負担の軽減のため、2026年度を目途に標準的な出産費用の自己負担の無償化に向けた対応を進める。 骨太 p.41 |

フローレンスでは、赤ちゃんの遺棄を防ぐ取り組みとして、予期せぬ妊娠に悩む女性への「にんしん相談」事業や、経済的に困窮する妊婦の健診・出産費用を支援する「無料産院」事業を展開しています。
赤ちゃん遺棄がなくならない背景の一つには、妊婦が経済的理由で医療機関の受診をためらい、結果として妊婦健診を受けないまま出産に至るという現状があります。
このような事態を防ぐため、フローレンスでは、経済的に困窮する妊婦が安心して医療とつながれるよう、妊婦健診や出産費用の無償化を求める提言を行ってきました。
骨太には、「妊娠・出産・産後の経済的負担の軽減のため、2026年度を目途に標準的な出産費用の自己負担の無償化に向けた対応を進める」と明記されました。
一方で、「妊婦健診」に関する具体的な記載は盛り込まれていません。特に、フローレンスが重要視しているのは、妊婦が医療や行政と初めてつながる入口である「初回の妊娠確定診断」の無償化です。現在、この診断は全額自己負担で、1~2万円の費用が必要です。
すべての妊婦が経済的な不安を感じることなく、適切な医療や支援につながり、母子ともに安全に出産を迎えられる社会の実現を目指して、今後も提言を続けてまいります。
保育園多機能化を過疎地以外にも
過疎地域などの待機児童が少ない地域では定員充足率が低下している状況となっており、安定的な運営が困難になる施設などが生じる可能性があることから、地域分析や支援の強化により、地域における統廃合や規模の縮小、多機能化等に向けた効果を検証するとともに、人口減少地域等における持続可能な保育機能の確保を進める。【こども家庭庁】
こども版骨太 P.61 |
フローレンスが提言してきた「保育園多機能化」は、昨年度の骨太にはじめて盛り込まれました。
令和6年度補正予算案では多機能化のためのモデル事業を行うことになり、令和7年度予算案にも引き続き盛り込まれました。国のモデル事業では、保育園がこどもを預けて働く場として存在するだけでなく、保育園が行う地域の人々も交えた様々な取り組みについて支援することが示されています。その中には、「保育園こども食堂」や「こども宅食」も含まれています。
▼「保育園こども食堂」や事例についてはこちらのサイトをご参照下さい。

しかし、保育園多機能化の必要性は、過疎地域に限りません。
保育機能の維持で言うならば、出生数はついに70万人を割り、全国的な少子化は加速度的に進んでいます。過疎地域は全国の約半数の自治体が指定されていますが、既に全国の約87.5%の自治体で待機児童がゼロです。
そしてなにより、多機能化は、保育機能の維持のみならず、地域の子育て世帯やそれ以外の人々をも支えることができます。例えば、最近も生後数ヶ月のこどもが虐待で亡くなるというニュースが続いています。「孤独な子育て」は、過疎地域に限らず、広く存在する深刻な課題です。こどもが安心安全に過ごせる環境であり、保育のプロである保育士がいる保育園が地域に開かれることで、こうした悲劇は防げるのではないでしょうか。
そのため、フローレンスは、保育園多機能化を過疎地以外でも行えるように、提言を続けていました。
▼第8回子ども・子育て支援等分科会(令和6年12月19日開催)
すると、この5月には、対象地域を拡大する通知(こども家庭庁成育局長「『多様な保育促進事業の実施について』の一部改正について」こ成保第369号 令和7年5月26日)が出され、過疎地域だけでなく、「過疎地域に準ずる市町村(※過疎地域に準ずる地域であると市町村において判断される地域を有する市町村)」に対象が拡大されました!
今後、さらにこの予算の対象が拡大し、全国すべての地域で保育園多機能化が進み、たくさんの親子の支えになることを期待します!
こども誰でも通園制度の実施
保育士・幼稚園教諭等の処遇改善、保育士配置の改善、こども誰でも通園制度の全国展開や、放課後児童対策、子育て世帯への住宅支援に取り組む
骨太 p.44 <こども誰でも通園制度の推進> 全ての乳幼児に対して、家庭と異なる環境に触れ、家族以外の多様な人と関わる機会等を提供するとともに、保護者・養育者の孤立感・不安感の解消や育児負担の軽減、親としての成長等を各家庭の状況等に応じて切れ目なく図るため、保育所・幼稚園・認定こども園等において、令和8年度から子ども・子育て支援法に基づく新たな給付として全国の地方公共団体において「こども誰でも通園制度」を実施する。【こども家庭庁、文部科学省】 こども版骨太 p.61,62 |
就労の有無を問わず、生後6か月から3歳未満のすべてのこどもが、月の上限時間の範囲内で柔軟に保育園を利用できる「こども誰でも通園制度」の取り組みが、昨年に引き続き明記されました。
フローレンスの保育園でも試行的事業をおこなっていますが、「月の利用時間上限が10時間では、こどもの育ちや保護者と保育者との信頼関係構築において十分ではない」「生後半年からしか利用できず、より早期の支援につなげられない」「行政から事業者への委託料が持続的な運営をするには十分ではない」といった課題も見えてきています。
令和8年度の全国給付化に向け、本制度がすべてのこどもたちの保育を受ける権利を保証し、利用者・事業者の双方にとってより良い仕組みとなるよう、提言を続けていきます。
▼「こども誰でも通園制度」についての詳細は過去記事を参照

こども性暴力防止法(日本版DBS制度)
令和6年6月に成立した「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等 のための措置に関する法律(こども性暴力防止法)」について、関係府省庁と連携しつつ、関係者の意見を丁寧に伺いながら、その円滑な施行に向けた準備を進める。また、こども家庭庁が中心となり、同年4月にとりまとめた「こども性暴力防止に向けた総合的な対策」を推進する。【こども家庭庁、関係省庁】
こども版骨太 p.50 |
フローレンスが2017年から「日本版DBS」制度の導入について提言を続け、2024年6月に成立した「こども性暴力防止法」について、こども家庭庁が中心となり準備を進めていくことが記されました。
現在、2026年の施行に向け制度の詳細が国で議論されています。真にこどもを守る制度となるよう、フローレンスはこれからも国の動きを注視し、提言を続けていきます。
▼「日本版DBS」についての詳細は過去記事を参照

付き添い入院
入院中のこどもやその家族等が安心して入院生活を送ることができるよう、入院付添いの環境を改善するための取組を推進する。【こども家庭庁、厚生労働省】 こども版骨太 p.60 |
付き添い入院の負担軽減についても、引き続き明記されました。
幼いこどもが入院した際、多くの保護者が24時間体制で付き添い、排泄・食事介助や寝かしつけなど、日常的なケアを担っています。その負担は非常に大きく、体調を崩したり、仕事を辞めざるを得なくなるケースも少なくありません。
この課題については昨年度、キープ・ママ・スマイリング(現:キープ・スマイリング)さんをはじめ、フローレンスなど複数の団体からの提言を受け、こども家庭庁が改善に取り組む姿勢を示しました。
今年も同様の文言が骨太に盛り込まれたことで、引き続きの議論と具体的な対策の前進が期待されます。
医療的ケア児
発達障害児や医療的ケア児など障害のあるこどもと家族への支援やインクルージョンの推進、こどもホスピスの全国普及に向けた取組、ヤングケアラーの支援を行う。 骨太 p.45 医療的ケア児が保育所等の利用を希望する場合に、その受入れが可能となるよう、保育所等の体制を整備するとともに、医療的ケア児の育ちと生活の総合的な支援を行う。【こども家庭庁】 医療的ケア児が安全・安心に学校で学ぶことができるよう、医療・保健・福祉等の関係機関と連携した就学移行期から学校における医療的ケアの実施体制の構築や医療的ケア児の保護者の負担軽減に向け、医療的ケア看護職員の配置促進等の取組を推進する。【文部科学省】 こども版骨太 p.35,36 |
今年度の骨太及びこども版骨太にも、医療的ケア児の保育や学校における支援体制の整備、保護者の負担軽減などが引き続き盛り込まれました。
中でも、わたしたちが特に力を入れている「学校への保護者の付き添い」の問題について、看護職員の配置促進などの記載があり、国の支援に向けた動きが少しずつ始まっています。
これまで、多くの保護者がこどもと一緒に学校へ通い、見守りや医療的ケアを担うなど大きな負担を抱えてきました。こうした状況が少しずつでも変わることを願い、引き続き提言を続けていきます。
▼学校付き添いに関する詳細は過去記事を参照

こども宅食・アウトリーチ
こども食堂・こども宅食や、学習支援、体験機会の提供など、こどもの貧困解消や見守り強化を行うとともに、こどもの状況も踏まえたひとり親家庭への多面的で伴走型の支援を強化する。
骨太 p.44 <子どもの進路選択支援事業> 被保護世帯の子ども及び当該子どもの保護者に対し、アウトリーチ等により学習・生活環境の改善、進路選択、奨学金の活用等に関する相談・助言を行う。【厚生労働省】 こども版骨太 p.29 <虐待・貧困により孤立し様々な困難に直面する学生等へのアウトリーチ支援の充実 > 親からの虐待や貧困家庭であることに起因して孤立し、生活困窮や心身の不調等の様々な困難に直面する学生等に対し、生活援助物資をアウトリーチ型で届けることをきっかけとして、更なる相談支援につなげる地方公共団体の取組を推進する。【こども家庭庁】 こども版骨太 p.33 |
フローレンスのグループ団体であるこども宅食応援団が全国に広げてきた「こども宅食」について、今年もしっかりと骨太に入りました。
「アウトリーチ」については、今年は骨太には入らなかったものの、こども版骨太の各所で具体的に、より細かい粒度で明記されるようになりました!
今後もこども宅食や、アウトリーチ支援を全国に広げるとともに、さらに安定的に届けていけるよう、事業・提言を続けます。
▼こども宅食・アウトリーチに関する詳細は過去記事を参照

デジタルを活用した伴走型相談支援
<母子保健のデジタル化の推進> 妊婦等包括相談支援事業において、妊娠初期、出産前、出産後の面談の他にも、アプリやSNSを活用した情報発信や、妊婦等の状況に応じてオンライン等を活用した随時の相談支援を行うなど、デジタル技術を積極的に活用するほか、面談等の実施記録や妊婦のための支援給付の支給記録に係る地方公共団体間での情報連携について、デジタルを活用した情報連携システムの構築の検討を進める。【こども家庭庁】 こども版骨太 p.26 |
昨年に引き続き、今年の骨太にも妊産婦への「相談支援」のデジタル化が入りました。
相談支援をデジタル化することで「リアルタイム性」というメリットが得られ、「地域の人材不足」をも解決する鍵となります。
フローレンスは自治体や他社と協働しLINEと対面を組み合わせた伴走型相談支援(ハイブリッドソーシャルワーク)に取り組んでいます。
▼デジタルを活用した伴走型相談支援については過去記事を参照




こどものウェルビーイング指標
こども施策の推進に当たって政府全体として収集すべきデータや指標を整備する観点も踏まえ、こども・若者に着目したウェルビーイング指標について、令和5年度及び令和6年度に実施した調査研究に基づき、外部の専門家の知見を活用しながら、我が国における指標の在り方について具体的な検討を進める。【こども家庭庁】
こども版骨太 p.104 |
フローレンス、公益財団法⼈ Well-being for Planet Earth(代表理事:石川善樹氏)、東京大学 鈴木寛教授と提言してきた、「こどものウェルビーイング指標」が今年も骨太に掲載されました。昨年度までの調査研究を踏まえ、いよいよ本格的な検討が始まります。
▼こどものウェルビーイングに関する詳細は過去記事を参照

良いこども政策をつくるには、効果の検証と改善につなげるPDCAサイクルが欠かせません。その出発点となる「こどもたちの現状の見える化」こそが、「こどものウェルビーイング指標」の目的です。
こどもたちの視点を反映した実効性のある政策づくりを後押しする、大きな一歩となることを期待しています。

おわりに
今後の重要政策の方向性の中に、こども・子育て支援に関する項目がたくさん入ったことは、非常に嬉ばしいことです。
フローレンスは、自ら子育て支援の事業を運営し、現場から日々得られる声を元に、国や自治体へ政策提言を行っています。
また、事業を社会に広げることで、親子を取り巻くあらゆる課題の解決を目指します。
綱渡りを強いられているようなハードな子育てをあたりまえにしないために、わたしたちは、社会の仕組みそのものをアップデートしていきます。
こうした取り組みは、皆さんからご支援いただく寄付を原資に実施しています。
いつも応援してくださる寄付者の皆さん、参加・協働してくださっている多くの皆さんに心から御礼申し上げます。
「こどもたちのために、日本を変える」
フローレンスはこれからも、日本中のこどもたちのために、子育て当事者の皆さん、親子を支える日本中の皆さんとともに全力で取り組んでまいります。
引き続きの応援、あたたかいご支援をよろしくお願いします。