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医療的ケア児支援法が変わる。改正のポイントを、フローレンス副代表 黒木さんにインタビュー

医療的ケア児支援法が変わる。改正のポイントを、フローレンス副代表 黒木さんにインタビュー

#障害児・医療的ケア児家庭支援

2026年7月24日、「医療的ケア児支援法」の改正法が成立しました(2027年4月施行予定)。

医療的ケア児とは、日常的に人工呼吸器や胃ろうなどの医療的ケアを必要とするこどもたちのこと。そんなこどもたちと家族を社会全体で支えることを目的に、国や自治体の支援の責務を明文化した法律、医療的ケア児支援法は2021年に誕生しました。

それから5年。

今回の改正は、何を変えようとしているのでしょうか。

フローレンスでは支援法ができる前から、10年以上にわたり障害児・医療的ケア児支援に取り組んできました。2018年の入職から今に至るまでこの領域に携わり、2021年の法律成立にも関わってきた副代表理事・黒木健太さんに、ディレクターの橋本吉央さんが改正について聞きました。

橋本 吉央(はしもと よしちか)

橋本 吉央(はしもと よしちか)

認定NPO法人フローレンス・ディレクター。障害児保育園ヘレン事業部マネージャーを経て、現在は広報・システム部門の責任者を務める。保育士資格保有。

黒木 健太(くろき けんた)

黒木 健太(くろき けんた)

認定NPO法人フローレンス・副代表理事。2018年にフローレンスに入職後、全国医療的ケア児者支援協議会の事務局として政策提言活動を行い、2021年の「医療的ケア児支援法」成立を後押し。一般社団法人全国医療的ケア児者支援協議会 理事。愛称は「くろけん」。

橋本

くろけんさん、フローレンズラジオでは医療的ケア児のご家族の暮らしの話をたくさんしてきましたけど、「法律」を正面から扱うのは今日が初めてですね。正直、制度の話って固くなりがちですが……。

黒木

固いですよね。でもわたしは、法律と暮らしは地続きだと思っているんです。

黒木

フローレンスでは10年以上医療的ケア児の支援をしていますが、2021年に支援法ができて医療的ケア児の支援が自治体の責務になってから、明らかに自治体が変わったと思います。

例えば、区の小学校に医療的ケア児が通うために「フローレンスでケアを担ってくれないか」という相談がいくつも来るようになりました。それまでは「対応できないから通えないね」で終わっていたことが、法律ができたことで現場が確実に変わり始めたと感じました。

橋本

それはわたしも、「障害児保育園ヘレン」の事業部にいた頃に実感していました。ヘレンではこれまで培ってきた医療的ケア児保育のノウハウを広める取り組みをしています。日々、保育園や自治体の方からいろいろな声が届きますが、現場の「困りごと」の多くは、実は制度の隙間の話だった。だからこそ今日は、この改正で何が変わるのかを、しっかり聞きたいと思っています。

そもそも、なぜ今、改正されるの?

橋本

2021年に法律ができたのに、5年で改正というのは、何か足りなかったということですか?

黒木

法律ができた当初から「見直し」は盛り込まれていました。2021年の法律成立は、それまで自治体の裁量に任されていた医療的ケア児への支援を、国や自治体の責務として明記した画期的なものでした。でも、運用してみることで見えてくることもある。今回は新たに見えてきた課題に対応するための改正と言えます。

黒木

一番大きな課題は、18歳になったとたんに支援が途切れるということです。現行法は18歳未満の「児」が対象で、大人になってからのことをカバーしきれなかった。フローレンスのサービスを利用する当事者家庭から「こどもが成長することが怖い」という声を聞くこともあります。

橋本

今回の改正を一言で表すと?

黒木

「18歳以降の医療的ケア者も支援する法律」への転換でしょう。

さらに、「重症心身障害者」(重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態の方)も対象に加わります。重症心身障害児者と医療的ケア児者は重複していることが多いのですが、これまで法律上の定義が分かれていたことによる混乱や不便が生じていました。そのため今回の改正は、個別の障害区分を超えた「包括的な支援の基盤としての法律」へと進化する改正とも言えます。

改正後の正式名称は「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」となります。

「18歳の壁」は、どう変わる?

橋本

「18歳以降の医ケア者も支援する法律」への転換、という点を深掘りしていきたいと思います。「18歳の壁」という言葉を聞きますが、具体的にどんな状況なんでしょう?

黒木

一番の壁は、居場所の不足だと考えています。18歳を境にそれまで利用していた児童福祉サービスが利用できなくなります。成人向けの「生活介護」などのサービスはありますが、医療的ケア者を受け入れる施設は非常に少ないのです※1。また、作業所などに通い働く場合も、帰宅時間が16時などと児童期に比べて早くなるケースも多いので、家族が離職せざるを得なくなることも。

※1 参考:障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(2020年)「生活介護に係る報酬・基準について≪論点等≫」P12,15

黒木

医療面でも壁があります。多くの人は大人になるにつれて小児科から成人の診療科へと受診するところを移していきますよね。でも、医療的ケア者の場合は、実際に対応できる成人科の病院が少ないんです。40代になっても小児科に通い続けざるを得ない状態が発生したり、「ずっとお世話になってきた先生に、もう診られないと言われた」というケースが起こっています。医療機関としても、18歳になると「小児特定加算」といった診療報酬のインセンティブがなくなってしまうそうで、同じケアを提供し続けると病院の経営を圧迫してしまうという事情があるのです。

黒木

医療も、居場所も、就労も、学びも——18歳以降は制度の空白地帯になっていた。「大人になる」というあたりまえのことが、医療的ケアが必要というだけで、すごくハードルが高くなっています。


橋本

改正でその壁はなくなりますか?

黒木

一気に全てが変わるわけではありません。ただ、18歳以降の「切れ目ない医療の提供」「就労の支援」「住居の確保」、「生涯にわたる学習機会の確保」——こうした支援を国や自治体が責務として担うことが法律に明記されます。「生まれてから、18歳以降も切れ目なく支える」という理念が法律に入ることの意味は大きいです。

「保護者が付き添わなければならない」問題は?

橋本

他にも改正のポイントを聞いていきます。
医療的ケアのあるお子さんの日々の学校生活や修学旅行・遠足に、保護者が同行しなければならない、という話を当事者から聞くことがあります。

黒木

今もあたりまえのように起きています。フローレンスでは2024年12月~2025年1月にかけて都内在住の家庭を対象に「学校付き添い」について調査を実施しています。約9割の保護者が学校付き添いを経験し、心身の負担や仕事への影響も示唆される結果でした※2。

こども自身が「自分のせいで親が仕事を休んでいる」と感じてしまうこともありますよね。それはこどもの尊厳の問題でもあります。

※2 参考:【都内在住の障害児・医療的ケア児家庭の学校付き添いを調査】約9割の保護者が学校付き添いを経験、心身の負担と仕事へも影響

橋本

今回の改正は、付き添いの負担を減らすことを意図しているんですよね?

黒木

はい。実はこれまでの法律でも、「学校に在籍する医療的ケア児が保護者の付き添いがなくても適切な支援を受けられるようにする」という趣旨の規定はありました。今回の改正では、「授業への出席」「修学旅行等の学校行事への参加」といった具体的な要素が盛り込まれたのがポイントです。

橋本

実現のための手段も必要ですよね。

黒木

そこも盛り込まれているんです。深刻な看護師不足の現状を踏まえて、一定の研修を受けた「介護従事者(痰の吸引などの医療的ケアを担える人)」の配置も規定に含まれました。「付き添いをなくす」という理念だけでなく、それを実現する仕組みまでセットで法律に入ったことは重要です。

家族が「休む」こと(レスパイト)への支援は?

橋本

医療的ケア児の家族は、本当に休めないという声をよく聞きます。

黒木

24時間ケアが必要なこどものそばにいる——それが当然のことになってしまっている家族がいます。睡眠時間については約6割の母親が「5時間以下」というデータも。レスパイト(家族の休息)支援はこれまでもありましたが、「使いたくても空きがない」という現実がありました※3。

※3 参考:全国医療的ケア児者支援協議会 親の部会「医療的ケア児・者家庭の実態と必要な支援のあり方 保護者による全国アンケート調査(2025)の速報」P6,7,18

黒木

今回の改正では、夜間に自宅で受けられるサービスや一時的に預かり保護をするといった支援が具体的に盛り込まれました。そしてもう一つ、わたしが大切だと思っているのがピアサポートの法定化です。

橋本

ピアサポートとは?

黒木

当事者や家族同士がつながり、支え合うことです。同じ経験をした人と話せることで、孤独が和らぎ、心の休息になることがあります。フローレンスでも主にサービスの利用者同士が集まる「家族交流会」を開催していますが、アンケートを読むとそのことを実感します。

でもこれまで、そういった活動への支援には法的根拠がなかった。今回の改正でそれが法律に位置づけられます。「孤立させない」という社会の意思を、法律が示した。地味に見えて、とても大きな変化だと思っています。

この改正を、フローレンスはどう受け止めている?

橋本

くろけんさん自身は、今回の改正をどう見ていますか?

黒木

間違いなく前進です。でも、ゴールじゃない。法律ができても現場が変わらないと意味がない。フローレンスとしてはこの法律を根拠に、家族にとってより良い支援を考え、動いていくつもりです。

橋本

現場で支援に携わってきた立場から、なにか思うところはありますか?

黒木

2014年に「障害児保育園ヘレン」ができてから12年が経ちます。当時ヘレンに通っていた子たちはもうすぐ18歳になりますね。「医療的ケアシッター ナンシー」は18歳まで使えるサービスなので、卒業生の中にはすでに18歳を超えた方もいます。やはり、「居場所」がなくて困っているという声を聞きます。「働きたいけれど、このままだと家でゲームをして過ごすしかない」。そう話してくれたお子さん・親御さんの顔が浮かびます。

黒木

冒頭でも話したように、法律は現場が変わるための後押しになると思っています。そういった「追い風」の中で、フローレンスも現場を持つ事業者として、18歳以降の課題についても「事業をつくり、しくみを変え、文化を生み出す」。そんなことをしていきたいと思っています。

橋本

頑張っていきましょう……!

そして、今日の話を聞いていて、多くの人にとって「知らなかった」ことがたくさんあるんじゃないかな、ということも感じました。18歳以降の空白も、修学旅行の付き添いも、24時間の過酷なケアの現状も。

黒木

そうなんです。そしてこれは、障害や医療的ケアのある「特別な人たちのため」だけの話ではないと思っています。学ぶこと、働くこと、笑顔で、自分なりの幸せの中で暮らすこと——それが医療的ケアや障害の有無で左右されない社会を作ることは、全員に関わる話です。だから、まず知ってほしい。知ることが、社会を変える力になると信じています。

橋本

ラジオでたくさん話してきて、それでも今日、改めて「これは大事な話だ」と思いました。まずはわたしから、今日聞いたことを誰かに話してみようと思います。


「医ケア児支援法って知ってる?」「最近、変わったんだって」——身近な誰かへのそのひとことに、この記事を添えてもらえたらうれしいです。法律は、知られて、話題になって、使われて、はじめて暮らしを変えていきます。

医療的ケア児について、もっと知りたい方へ

「医療的ケア児とは何か」「なぜこの法律が生まれたのか」という背景や当事者家族のリアルな声は、フローレンズラジオ「医療的ケア児編」で詳しく話しています。


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