「自分のこどもには、自分と同じような辛い思いをさせたくない」
そう願いながら、子育てをする一方で、自分自身のこども時代の記憶や感情がよみがえり、思いがけない苦しさを抱えている人がいます。
フローレンスが「虐待の世代間連鎖をゼロに」するための活動を進める中で、子育てや過去のつらい経験についてアンケートを募集したところ、数多くの声が寄せられました。また、こども時代に虐待等の逆境的な体験(ACE:エース Adverse Childhood Experiences)について紹介した記事にも、さまざまな感想やご意見が寄せられています。
ACEは、「こどもの頃に起きたこと」です。しかし、その影響はこども時代だけにとどまるとは限りません。大人になり、親になった今も、過去の経験がふとよみがえり、苦しさを抱えることがあります。
では、ACEを経験した人たちは、大人になった今、どのような苦しさを抱えているのでしょうか。そして、「自分のこどもには同じ思いをさせたくない」と願う人たちに、社会は何ができるのでしょうか。
今回は、フローレンスに届けられたACEサバイバーの方々の声から、大人になった今も抱えている苦しさと、虐待の世代間連鎖を防ぐために、わたしたちの社会に何が必要なのかを考えます。
こどもを育てることで、自分の傷ついたこども時代と再び対峙する
寄せられた声を読んでいると、ACEを経験した人にとって、「親になること」が、自分自身の過去と再び向き合う経験にもなっていることがわかります。
まず、こどもとどう接してよいかわからないという声がありました。
自分がこどもの頃、親の意向に反すると怒鳴られたり、叩かれたりして育ったので、こどもを諭すとか、なだめるといった対応もできず、イライラしてばかりいました。時には手を出してしまったこともあります。(50代女性)
こどもへの叱り方が「怒鳴る」「見放す」以外わからないです。(30代女性)
また、目立ったのが、こどもに嫉妬のような感情を抱いてしまうといった声です。
穏やかに生きているこどもを見ると嫉妬してしまうことがある。(30代女性)
こどもが幸せそうにしていたり、安心してわがままを言えていたりする姿を見ると、「なぜ、生まれる場所が違うだけで、こんなにも人生は変わってしまうのだろう」と、深い虚無感に襲われます。(30代女性)
栄養バランスを考えてこどもに毎朝、朝ごはんを作りますが、彩のあるお皿を見て「こんなものが朝から食べられるなんていいな」「わたしも食べたかった」と感じます。(40代女性)
こどもを育てることはただでさえ大変です。今回寄せられた声からは、そんな子育ての中で、かつて傷ついた「こどもの頃の自分」を思い出し、苦しさを抱えている人たちの姿が見えてきました。
「誰かを頼る」ができない親たち
子育てが苦しいとき、「家族を頼って」「誰かに相談して」と言われることがあります。
けれど、ACEを経験した人にとって、その「頼る」が簡単ではない場合があります。
親と絶縁状態のため、頼れない。相談もできないのが、たまに辛い。一人で頑張らなきゃいけないというプレッシャーが常にある。(30代女性)
親と離れたくて上京した分、心理的にも距離的にも育児で親を頼れない。(30代女性)
とにかく孤独。うまくいかないときは「自分が悪いから・努力が足りないから」という思考なので、人やサービスを頼れなかった。(30代女性)
という切実な声が寄せられました。
こどものことを大切に考えているのに、同時に苦しさも感じてしまうという葛藤が伝わってきます。
わたしたちは「子育てしている中で、困難を抱えている人はどんな経験を受けてきたのか」その実態を明らかにしようと、2026年4月に「子育て中の親を対象とした大規模アンケート調査」を実施しました。


回答を得た1,452人からは、幼少期に「安心させ、守ってくれる大人がいなかった」と回答した人ほど、親になった現在も「誰にも頼れず、一人で頑張りすぎている」と感じる割合が高いことがわかっています。
こどもの頃、困ったときに大人に守ってもらえなかった。
その経験が、人を信じることや、誰かに助けを求めることの難しさにつながり、大人になって子育てをするときにも孤立につながっているのではないか。
わたしたちは調査結果といただいたコメントからもそう考えています。
「こどものACE」だけでなく、「大人になったACEサバイバー」にも目を向けて
近年、ACEがこどもの心身に長期的な影響を与えることへの認識は、少しずつ広がっています。2026年6月に政府が公表した「こどもまんなか実行計画2026」でも、こどものACEの予防とケアを行うことの重要性が示されました。

これは大きな前進です。
一方で、かつてACEを経験したこどもは、その後、大人になります。 そして親になったとき、自分自身の傷を抱えながら子育てをする人もいます。
今回寄せられた声には、
子育ての中でこどもに向き合うとき、やりたくないのに自分がしてしまうこと、言ってしまうこと、自分で取り扱うことが難しい感情やトラウマによって、苦しんでいる子育て中の親がたくさんいると思います。(30代女性)
という言葉がありました。
その方は、そうした苦しさを「吐き出し、整理し、自分の意志でこどもに向き合うことができるようなサポートを利用することが、もっと普通で、簡単でハードルが低いものになってほしい。」と訴えています。
別の方からも、
虐待の世代間連鎖をなくすために、虐待を受けた大人が「幼少期の自分」が癒される適切なカウンセリングが受けられる、または話を聞いてもらえる場があると良い。(50代女性)
という声が寄せられています。
虐待などの逆境を経験しながらも支援につながることなく大人になり、いま、過去の傷や生きづらさを抱えながら子育てをしている人たちがいます。
これまでACEへの対策は、「いま逆境の中にいるこどもをどう守るか」という視点が中心でした。しかし、かつて逆境の中にいたこどもが大人になった後、その人をどう支えるのかという視点も必要です。
もちろん、すべてのACE経験者が同じ困難を抱えるわけではなく、ACEを経験したからといって虐待が世代間連鎖すると決まっているわけでもありません。
一方で、今回寄せられた声からは、過去の傷を抱えながら子育てをする苦しさや、人を頼ることそのものの難しさが見えてきました。
「自分のこどもには同じ思いをさせたくない」と願う親自身の努力だけに、連鎖を止める責任を負わせてよいのでしょうか。
わたしたちは、ACEを経験した人が大人になった後も、必要なときに適切な支援につながれる社会にしていく必要があると考えています。
そのためには、「この親にも、これまで誰かに守ってもらえなかった人生があったかもしれない」という視点を持ち、親自身の苦しさにも目を向け、社会全体で支えていくことが必要です。
連鎖を「自分の代で止めたい」と願っている人を、ひとりにしない
今回寄せられた声の中に、わたしたちがこの活動を続ける理由を象徴するような言葉がありました。
父親から暴力を受けて育ち、その父親もまた祖父から激しい暴力を受けていたという方(50代女性)は、
このような連鎖を構造的に少しでも減らせる世界線に期待しています。
と書いてくださいました。
また、自身の苦しみが「虐待の世代間連鎖」から来ていることに気づいた方(30代女性)は、
虐待の世代間連鎖を止めることは一つの社会貢献だと考えています。個人の努力にかかっているものだと割り切っていましたが、サポートしてくれる人がいるなら嬉しいです。
と語っています。
虐待の世代間連鎖を止める責任を、傷ついてきた一人ひとりの「努力」だけに背負わせてはいけない。
過去をなかったことにはできなくても、その人が次の世代を育てるときには、社会が隣にいることはできる。
フローレンスは、虐待が起きてから対応するだけではなく、起きる前に親の孤立や苦しさに気づき、支えられる社会を目指しています。
直接的な支援だけでなく、まだ光の当たっていない構造的な課題や当事者の声を世の中に届け、社会の認知や制度を変えていくことも、わたしたちの重要な役割です。 これからも現場の声をもとに社会へ問いかけ、発信を続けていきます。
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