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2018/12/27

「透明なゆりかご」漫画家 沖田×華さんインタビュー 命の現場で見た「家族のカタチ」、「母性」、「親」とは?

    


2018年、NHKでもドラマ化され社会現象となった人気漫画「透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記」をご存知でしょうか。先日12/27には平成30年度(第73回)文化庁芸術祭のテレビ・ドラマ部門にて大賞を受賞しました。

「透明なゆりかご」は、作者の「沖田×華(おきた ばっか)」さん自らが、産婦人科で看護助手をしていた経験をもとに、出産や中絶、親子関係などをテーマに命の現場をリアルに描いた漫画です。第42回講談社漫画賞の少女部門も受賞し、全7巻累計380万部を売り上げる話題作です。

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こちらが、漫画家の沖田×華さんです。フローレンスでもファンが多く、漫画の全巻読破はもちろん、特に、ドラマの放送期間は「透明なゆりかご」のよもやま話に花を咲かせては盛り上がることもしばしば。

フローレンスでは、予期せぬ妊娠に悩む女性の相談にのり、産みのお母さんが赤ちゃんを養親に託すことを希望した場合、子どもを望む夫婦と赤ちゃんを特別養子縁組で繋ぐ、という「赤ちゃん縁組事業」に取り組んでいます。

「透明なゆりかご」最新刊(7巻)で、まさにこの「特別養子縁組 」について詳しく描写されたエピソードが登場した時には、なにか運命のようなものを(勝手に!)感じてしまいました。

そしてなんと!その作者である沖田×華(おきた・ばっか)さんにお話を伺うことができたのです。超売れっ子でメディアからも引っ張りだこの沖田さんが、まさかインタビューを受けてくださるとは・・・!

にんしん相談や特別養子縁組といった命の現場「赤ちゃん縁組事業」を運営するスタッフが、沖田×華さんに「家族ってなに?」「親になるってなんだ?」をぶつけてみた、フローレンス独占インタビューをお届けします。

漫画を描くきっかけは、“女性だけが責められる理不尽”さを感じたことだった

スクリーンショット (14)

ーー透明なゆりかごは、実際に沖田さんが産婦人科で働いていたエピソードが元になっていると伺いましたが、どうして産婦人科のことを描こうと思ったんですか。

沖田さん:産婦人科に勤めて、妊娠や出産にはいろんな背景があることがわかりました。必ずしもハッピーなものばかりじゃない。むしろ、望まない妊娠や性暴力、不妊、流産、離婚、ひとり親…いろいろあります。

だけど、そんな時必ず「女性が」責められるんですよ。パートナーの方に問題があっても、です。女性ばかりが責められるのってすごく理不尽だと思うようになりました。

それで、あのとき産婦人科で見てきたこと、その背景にあったものを描いてみたいと思ったんです。流産、中絶、といったことにはマイナスイメージがあるし、漫画を読んで傷つく人がいるかもしれない。でも、こういった現実を知ってほしいとも思いました。

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スクリーンショット (15)

“出産の数だけ中絶がある” 産婦人科で見た現実

ーー漫画を描こうと思った時に、まず描きたいと思ったエピソードは何でしたか。

沖田さん:1話目のネームを作る時に最初に思い浮かんだのは、中絶についてでした。

産婦人科での現場では、出産に感動もしたけれど、同じ数だけ中絶もありました。10代~30代、年齢を問わず本当に多いことに、びっくりしました。当時、私は高校生でしたが、同級生の年齢の少女の妊娠も多くて。未成年で親に殴られながら来る人もいれば、結婚していても旦那さんに言わずに中絶する人もいました。

妊娠て、こういう問題がセットなんだ…!と初めて知ったんです。

ーー沖田さん自身は、中絶する女性についてどのように思われましたか?

沖田さん:中絶手術をして泣いている人を見て、「自分で中絶を選んだのにどうして手術後の病室で泣くの?」とはじめは不思議でした。「なんで、みんな産めないのに妊娠するの?」と、初めは中絶する女性に腹が立っていた部分もありました。

一方、出産した人の中にも問題を抱えている人がいっぱいいました。私が働いていた産婦人科では、子どもが生まれたらお祝いカードを書く習慣があったのですが、「お母さんお父さん、おめでとうございます」と書こうとしたら、先輩に「お父さんは書いちゃダメ!」と言われたり。未婚で子どもを産むのは珍しいことではないのも、このとき知りました。

様々なケースに出会ううち、単純化できない女性の気持ちやそれぞれの環境に興味を持つようになったと思います。

ーー第1話の、中絶の処置をされた赤ちゃんに主人公(沖田さん)が子守唄を歌ったり、景色を見せるシーンがとても印象的でした。スクリーンショット (17)

沖田さん:処置室と新生児室って、隣にあるんですよ。実際に勤務していた産婦人科の中絶処置室はとても簡素な部屋で、一人でそこで処置をしていました。中絶された小さな赤ちゃんを専用のケースに入れるんですが、その病院は窓からの景色がとてもきれいだったので、赤ちゃんに景色を見せてあげていました。

すぐ隣の新生児室では生まれることができた赤ちゃんがいて、その隣の部屋で処置をされる赤ちゃんがいる。その”対比”がすごく不思議でした。元々は同じ命だったはずなのに。

家族って夫婦が揃っていても、ぐちゃぐちゃになる

ーー漫画を拝見していると、沖田さんは独特の感性と視点を持っていらっしゃるように感じますが、そんな沖田さんはどんな子ども時代を過ごされていたんでしょうか?

沖田さん:育った地元は飲み屋街で、当時は酒を飲んでだらだらしてる男性や、ルーズな女性も多くて。子どもたちはといえば、同級生や自分より下の子がその辺に放置されていることはよくある地域でした。

子どもたちの状況は過酷で、親が家をあけて1週間帰ってこないとか。墓場のお供え物を食べたりとか。こういう子が大人になったらどうなるんだろう?と子どもながらに思ってました。子どもをボコボコにする親もいたし、一家で夜逃げしないと死ぬかもとか、そういうことが日常茶飯事でした。

そういう環境で知ったことは、家庭って夫婦が揃っていたとしても、ぐちゃぐちゃになる、不安定なものだということ。

もともと他人同士がくっついているので、うまくいくのはレアケースだというベースが自分の中にあるんですね。

だから、わりと「家族」とか「母性」とかを信用していなくて。一般的に信じられてることに違和感を感じるんです。それがいろんな作品の根底にあるのかな。

沖田さんが考える“母性”とは・・・「常に変化するもの」

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ーー「家族」や「母性」というお話がでましたが、2018年日本中がやるせない気持ちになった子どもの虐待のニュースがいくつもありました。今の社会の子育てを見て、沖田さんが感じることはありますか?

沖田さん:子どもに手をあげてしまうことに悩んでいる人を実際知ってもいますが、好きで手をあげてるわけではなくて、母親の負担が大きすぎるんだと思います。

お母さんというのは、初めからお母さんではないですよね。お医者さんですら、産んだらみんなが自動的にお母さんになるような言い方をするけど、本当は違う。産んだ瞬間からお母さんになるのではなくて、赤ちゃんもお母さんもゼロ歳からはじまり、お互いに影響しあって成長していくものだと思います。

学校の教科書で「子どもを愛する」というのが母性なのだと習ったけれど、母性というのは常に一定のテンションではなく、変化するものじゃないかな、と。産まれるときはこの子を幸せにしてあげたいと思っても、その後アップダウンがあり、ダウンの時に最悪な気分になったりもする。最悪な時も含めて母性だと思います。

虐待で子どもが亡くなってしまったとき、母親は鬼、悪魔と言われて責められるけれど、母親だけが厳罰に処されるのはおかしい。経緯を調べていくと、最初から痛めつけているわけではなく、離婚や孤立無援の環境になったことが関係していたりする。

しんどい状況において「お母さんでいられない」ときがあっても当たり前だと思いますし、そういう親を支えることが必要だと思います。

ーー母親に負担が大きく孤独になりやすいから、周りがどれだけサポートできるか、というのが大事ですね。

沖田さん:今の世の中は「わたし今、お母さんでいれない」ということが言えないんだと思います。それが虐待になってしまう、ということがあるんじゃないかなって。

子どもを愛するほど「お母さんじゃいられない」というときの振れ幅が激しくなることだってあるはず。子どもを虐待するお母さんは特殊な鬼母なのではなくて、誰もが予備軍になりえると思います。

ーー本当にそうですね。フローレンスの赤ちゃん縁組事業では、手のひらサイズの小さなカードをつくって、妊娠や子育ての不安の相談窓口があることを周知し始めたんです。

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沖田さん:産んでも育てられない状況で出産当日をたった一人で迎えたら、赤ちゃんを殺してしまうかもしれないし、育児を始めたとしても虐待のリスクがありますよね。ぜひ漫画喫茶とか駅のトイレにも置いて欲しいです。スクリーンショット (16)沖田さん:透明なゆりかごでも描いた女子高生の自宅出産の話は、実話をもとにしています。その子は本当に普通の女子高生でした。赤ちゃんを置き去りにする場所は自宅の近くにあったかもしれないのに、私が働いていた遠方の産婦人科をわざわざ選んで、赤ちゃんを置きに来たんです。出産直後の身体を引きずって、あのときどんな気持ちで来たんだろうと思います。

相談ができる窓口があることをもっと知ってほしいと思います。

いろんなかたちがあるのが「家族」 「家族」は自分で作れるもの

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ーー沖田さんの作品の多くは「家族」がテーマですよね。沖田さんが考える「家族」とはどういったものですか。

沖田さん:私は結婚していないのですが、どうしようもないことばかりしでかしていた弟が12年前に結婚したんです。その弟が、子どもが生まれたときに特にすごく変わりました。いま、弟は朝4時におきて、22時に寝て、子ども3人を育ててすごくまともに「家族」をやっています。嫁さんに花束を送ったりもしているらしく、わたしの知らない弟の姿に驚くばかりですよ。

過去どんなことがあっても、自分で家族はつくれるんだ、新しい人生をつくれるんだと、弟を見て気づかされました。

家族になっていく過程にも色々なことがあったと思いますが、いいところも悪いところもあって、いろんなかたちがあるのが、家族。与えられるものじゃなくて「家族は自分でつくれるんだ。新しい人生をつくれるんだ」って

(インタビューここまで)

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「家族」は自分で作れるもの。

”正解”は無く、一人一人違って、自分で自由に築いていくものなんだなと沖田さんの言葉に共感しました。

さまざまな親子、家族との出会いを掘り下げ漫画で表現してきた沖田さんの言葉に、はっと気づかされることがたくさんありました。

フローレンスで取り組む「赤ちゃん縁組(特別養子縁組事業)」でも、2016年の事業スタートから約1000名のにんしん相談を受け、13組の「新しい家族」が誕生しました。

赤ちゃんを待ち望んでいる家族に託すことができた産みの親御さんも、新しい家族に迎えられた赤ちゃんも、赤ちゃんを迎えた養親さんも、それぞれが自分たちらしい幸せの形を育んでいます。

赤ちゃん縁組事業を応援する



書いた人:藤田順子


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