2023/11/22
【看護師対談】病院から保育現場へ。初めての挑戦とは(病児保育・障害児保育)~前編~
フローレンスでは、日本のこども・子育て領域の課題を解決するため、病児保育・認可保育・障害児保育など、さまざまな保育や支援をお届けしています。
今回は、現場で活躍する看護師2人にインタビュー!医療現場で働いていた二人が、フローレンスの保育・支援の現場で、日々どんな仕事をして、なにを感じているのか聞きました。前後編に分けて、たっぷりとお届けします。
まゆこ先生(障害児保育園ヘレン)
病院にて十数年勤務、うち8割は小児科所属。病院でこどもたちを支える中で、地域でのサポートができないかと考えるようになり、フローレンスの障害児保育園という存在を知る。2023年4月に意を決してフローレンスへ転職。現在、障害児保育園ヘレンの園勤務看護師として活躍中。
すみれちゃん(病児保育事業部)
新卒から約7年間、大学病院で勤務。医療的ケア児が退院する際に親御さんに必要な医療的ケアの指導などをする中で、退院後を支えられるような仕事がしたいと考えるように。2年前にフローレンスへ転職。当初は障害児保育園に関心があったが、現在は病児保育事業部の看護師として勤務している。
★障害児保育園ヘレン 障害児を専門に長時間保育し、保護者の就労支援も行う、日本初の障害児保育園。2014年に荻窪に開園し、現在は経堂、東雲、中村橋を加えた4園を運営中。 ★病児保育事業部 風邪やお熱のお子さんのご自宅に保育スタッフが訪問し、一対一でお預かり。こどもが急に熱を出した、けれど今日に限って仕事を休めない…そんな働く親御さんのピンチに駆けつけます。 |
ーーどうしてフローレンスの看護師になりたいと思ったのか教えてください
まゆこ先生:わたしは主に大学病院に勤めていたので、重症な子や在宅で医療的ケアが必要なこどもたちをよく見ていました。そういうこどもたちは定期的に検査等で入院してくるのですが、少し期間が空いて会うと、誰を見てもすごい成長を感じていました。
お家にいるだけでこんなに成長するのに、その当時は医療的ケアが必要なお子さんはなかなか保育園には入れない状況でした。小学校は特別支援学校に入れるけれど、療育をやりつつの保育ってなかなかないし、お母さんが仕事を辞めなきゃいけないという状況がどうしてもあって、親御さんと一緒に悩んでいました。
そんな中、病院以外で小児看護ができるところを調べていたら「障害児保育園ヘレン」に出会ったんです。
その後、フローレンスの看護師として働いている後輩から「小児看護」という視点でのやりがいがあると聞いたこと、さらに、障害児関連の病院で働いている別の後輩からも、ヘレンを利用してる親御さんの満足度が高いと聞いたことが転職のきっかけになりました。
すみれちゃん:わたしは新卒で小児科に勤めていて、仕事が大変で辛かった時に、医ケアのあるお子さんが一生懸命頑張ってる姿を見たり、笑顔を向けてくれたりした時に、すごく救われたことがありました。障害のあるお子さんも、健常のお子さんと同様の保育が受けられるような支援をしたい、とその時に思ったんです。フローレンスの存在を先輩から聞いて、「わたしの思ってきたことと同じビジョンだ!!!」と衝撃を受け、ここで働くことを決めました。
ーーフローレンスでの今の仕事・具体的な1日の流れについて教えてください
まゆこ先生:看護師として、園で看護をしながら保育をしています。
朝は、バスでご自宅までお迎えに行きます。登園後は朝の会、活動、お昼ごはん、午睡(お昼寝)、おやつ、帰りの会、バスに乗って帰宅という流れです。
こども一人一人に保育スタッフと看護師の担当がいて、気管切開や胃瘻(※)などの医療的ケアが必要なお子さんとは、看護師が一緒に体操をしたり、活動を行っています。お昼ごはんやおやつの時間は、必要な子には看護師が注入を行います。午睡時は、通常の睡眠チェックに加えて、看護師としてお子さんの観察を行い、異常時には対応を行います。例えば、気管切開をしているお子さんの呼吸状態を観察したり、人工呼吸器が必要なお子さんであれば呼吸器が正常に稼働しているかをチェックしたり、てんかんのお子さんは発作が起きていないか観察したり、酸素モニターが必要なお子さんは酸素の値が正常かをチェックしたりしています。
※気管切開:肺に空気を送ったり、痰を吸引しやすくしたりするために気管に孔を開けること。切開した気管には、気管切開チューブというものを挿入します
※胃瘻:口から食事をとるのが難しい人のお腹に穴を開け、開けた穴にチューブを通し、直接胃に食べ物を流し込む方法です
すみれちゃん:病気のお子さんが健やかに回復して、安心安全に保育ができるような下支えをしています。
業務は多岐にわたるのですが、大きく分けると2パターンあります。
ひとつは、病児保育室に勤務する場合です。病児保育室で保育スタッフと一緒に保育をしたり、予約対応や医師の問診の対応など、保育室の日々の運営を行っています。
もうひとつは、訪問型病児保育に関する対応をすることです。訪問型病児保育の入会申し込み時には、既往歴があるお子さんの問診をします。病児保育は、保育スタッフがご自宅に訪問して保育を行うため、看護師はお子さんが緊急で医療的配慮が必要になったときの対応やアドバイスをすることもあります。肢体不自由のお子さんなど、訪問看護が必要な場合には、ご自宅に訪問することもあります。
週3・4日は病児保育室で勤務し、週1・2日が訪問型の対応をしています。月に1回は、病児保育の看護師全員が事務局に集まる日もあります。定期的に集まって、保育スタッフ向けの研修内容を検討したり、お子さんの情報共有をしたり、気になることがあればその対応方法や親御さんへの問診内容などを検討したりしています。
ーーこれまでの経験が活かされていると思うのは、どんなときですか?
まゆこ先生:小児病棟に長く勤めてきたので、病名を聞いて、ある程度はお子さんの様子が想像できます。医ケアの行為自体も問題なく対応できます。病院だと入院するお子さん、退院するお子さんの入れ替わりがかなり多かったので、初めて会うお子さんでも臆することなく、少しずつ声をかけながら打ち解けていくことができますね。
すみれちゃん:病児保育室に勤務している日も、訪問型病児保育の対応や事務作業をする日も基本は一人で対応することが多く、自ら判断することが求められるのですが、病名や病態などを前職で学ぶことができたので、病名を聞いて、ある程度は自分で判断ができます。
病児保育室では、緊急で受診が必要だとか、そういった判断も任されているので、アセスメント能力は今の仕事に活かせているなと思います。
ーーここからは日々感じていることについてお聞きしたいと思います。フローレンスへの入職前後で、ギャップはありましたか?
まゆこ先生:小児病棟での経験があったので、こどもたちと遊ぶ機会は多かったはずなのに、「保育」というものを理解した上で対応をするとなると全くできませんでした。
病院では、例えば親御さんがいない時間帯に、その場にあるおもちゃで遊ぶことぐらいしかできませんでした。ヘレンにいると、「保育」という観点で、それぞれのお子さんを担当する保育スタッフが決めた「ねらい」に沿って、どのような関わりをしたら良いかを考えます。「保育って、こんなに考えなければいけないんだ!」と感じましたね。そう簡単に保育ができるとは思っていなかったですが、難しい、と思いました。
それぞれの活動でどんな関わりをするのか、お子さんごとに目標やねらいがあるので、それを理解したうえで接するのが最初は大変でした。
すみれちゃん:病院にしか勤めたことがなかったので、フローレンスでは本当に限られた資源の中で、すごく上手に対応しているなと感じました。
病児保育室では病院と比べると環境が整っていない中で、「これで大丈夫かな…」と思うこともありました。実際に働いてみると、今行っている以上の対応をすることが難しいことがよくわかり、できるだけ感染拡大しないような工夫をして、かつ、お子さんの安全も守られるような環境を作る、その発想力にとても感動しました。
まゆこ先生:「感染管理」の仕方の病院との違いについては、保育園の看護師をしている知人から聞いていたので、戸惑いを感じることはありませんでした。例えば保育園では医療用ガウンを身に着けたりしないですし、保育園は生活の場なので、病院で生活をするのとは全然違うんですよね。
ーーフローレンスに入って初めて挑戦したことを教えてください
まゆこ先生:わたしは看護師としてずっと病院にいたので、指示を仰げる医師がすぐ近くにいることが当たり前の世界でした。
看護師としての判断はしてきたつもりでしたが、自分の判断をすぐに保育スタッフたちに伝えなければならない。指示を出す立場になることが初めてでしたし、責任重大だなと感じました。先程お話した「保育」も挑戦でしたね。
すみれちゃん:わたしにとっての初めての挑戦であり、奥が深いなとも思ったのが研修です。
保育スタッフに向けた研修をする機会があるのですが、全く医療知識がない方に研修をすることは初めてでした。
思ってもいない角度から質問をもらうこともありますね。「確かによくよく考えると、気になりますよね!」みたいな感じで、保育スタッフの皆さんと一緒に、一から学んでいます。自分自身が正確に理解できていないと研修はできないので、どんな質問がきても答えられるよう勉強し直しました。
保育スタッフの学ぶ意欲はとても高いので、一緒に成長していけたら、と思ってやっています。
まゆこ先生:わたしも、勉強会を保育スタッフ向けに行ったんですが、病院にいた時は医師にお願いしていたので、「フローレンスでは自分がやるんだ!」となり、改めてテキストを開きました。医療用語ばかりでは伝わらないので、わかりやすい言葉で伝えるようにしています。
ーーフローレンスの看護師だからこその難しさや大変さなどを教えてください
すみれちゃん:病児保育事業部は保育スタッフの割合が多く、看護師は4名だけなんです。
看護師って、新しいことにチャレンジするとき、まずはリスクを考えるんですよね。でもフローレンスは「(明るいノリで)やってみよう!!!」というポジティブな雰囲気の組織なので、困惑してしまうことがあって。
どちらが良いとか悪いとかではなく、わたしたち看護師はリスクを想定して動いたり考えることが多いので、仕事に対する考え方がうまく擦り合わないときは大変です。ただ、看護師としての意見はしっかり伝えるようにしています。
まゆこ先生:病院にいる頃から保育スタッフと接する機会があり、最低限の「やってはいけないこと」はまず伝えるようにしていました。
今は保育という観点で「新しくこんなことをしてみたい」という提案があったときに、看護師も一緒に検討をしています。ナースミーティングで懸念点やリスクを洗い出し、「こうやればできるんじゃないか?」「こうではなく、こうしたらいいんじゃないか?」など看護師としての意見を伝えます。意見がぶつかることもありますが、「何かあれば一緒に対応しよう!大丈夫!」という気持ちでいます。
(一同)かっこいい~~!!!
まゆこ先生:わたしも最初のうちは「危ない」と思って、リスクを避けたい気持ちが強かったのですが、病院でのキャリアの最後の方に、こどもの成長発達に何ができるかを考えたら、保育士さんの存在だよな、保育だよなと感じるようになったんです。
そこから、少ない時間でもこどもに何ができるか、看護師としての自分じゃ提供できない何かを保育に託そうと思うようになりました。今では自分が担うことになりましたけど(笑)
病院だと、どうしても「保育」は後回しになってしまう状況がありました。今は「保育」が目の前にあり、看護師のわたしたちも日々「保育」ができています。
「こどもたちと関わる看護師の仕事」という前職との共通点がありながら、病院から保育現場にキャリアを移したふたりが感じた様々な違いや葛藤、挑戦がありました。
後編では、看護師と保育スタッフの連携の仕方、そして、ふたりが大切にしていることをご紹介します。
後編はこちら!
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