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働き方改革

2023/11/28

【フローレンスと介護】 家族がみる「べき」を超えて 社会全体で支える介護の文化をつくりたい

  


フローレンスは10年以上前から「働き方革命」を掲げ、フレキシブルな働き方・男性育休の取得推進など仕事と子育ての両立を叶える人事制度、そしてそれらの制度があたりまえに活用される社内文化が根付いています。

仕事と子育ての両立、更にその先に立ちはだかる「介護」との両立。介護は子育てのように、こどもの成長のステップに沿った対策ができるわけではなく、努力だけでは解決できないこと、今まで培った「仕事と子育ての両立ノウハウ」が通用しない場合が多くあります

まだまだ子育て世代が多くを占めるフローレンスですが、「仕事と介護の両立」に悩みや困難を抱える人が増えてくる前に、管理職向けの研修やスタッフ全員に向けた介護についての情報コンテンツを作成するなど、両立のための体制づくりをはじめています。

今回は、フローレンス流の介護との両立施策の実現にご支援いただいたNPO法人となりのかいご代表の川内様をお招きし、代表理事の赤坂とじっくり語った「ビジネスパーソンも親も疲弊しない介護と仕事の両立」についての対談をお届けします!

 

対談者:
NPO法人となりのかいご代表 川内 潤様

社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)、介護福祉士、厚労省『令和4・5年度中小企業育児・介護休業等推進支援事業』検討委員

 

 

 

 

 

認定NPO法人フローレンス 代表理事 赤坂緑

1999年慶應義塾大学卒業。事業会社にてマーケティング・育成等を経験後、2014年1月認定NPO法人フローレンス入職。病児保育事業・保育園事業の事業部長を経て、2018年に役員就任。2022年9月に代表理事に就任。二児の母。キャリアコンサルタント・保育士。

 

 

 

 

介護の問題はブラックボックス化し見えにくい

赤坂:フローレンスは2004年、日本初の訪問型・共済型病児保育事業からスタートし、こどもの虐待や貧困・障害児家庭の支援不足など親子の孤立の課題を解決するための多様な保育事業を運営しています。他にも全国で「こども宅食」「おやこよりそいチャット」「にんしん相談」「赤ちゃん縁組」などの福祉事業と支援活動・政策提言を行っており日本のこども・子育ての領域で総合的な活動を行っています。

子育てと仕事の両立を叶えるための事業を提供しているため、「子育て」に関する社内の情報や両立制度は非常に充実しています。一方で「介護」に関してはまずはどこから始めたら……というところでした。

2024年に創立20周年を控える中で、様々なライフステージ、年齢のスタッフがおり介護に向き合うスタッフも増えてきました。このタイミングで組織として介護について支援したいという思いから、仕事と介護の両立支援施策を進めることにしました。川内さんに講師としてご協力いただいた管理職向けの介護研修にもありましたが「仕事と介護は両立できる」ことをまずはスタッフ全員に知ってもらうことが大事だと思っています。

川内:育児に比べ、仕事と介護の両立のための取り組みを行っている企業はまだまだ少ないですね。スタッフがどうやったら両立できるか、具体的なイメージを持てていないんです。

介護のことを上司や会社に相談しない、社会保険上の手続きがあるわけでもない、基本的に介護の課題は隠れてしまうことが多いです。離職者が出ることでやっと課題が顕在化します。

大事なことは離職者にフォーカスしても解決策は見えてこないということです。離職するまでのプロセスの中にこそ支援が必要な場面があったはずで、離職防止のための休暇制度を手厚くしても両立にはつながりません。極端ですが、介護=休むとしてしまうと、職場から排除するのと同じになってしまいます。

本当の意味での両立支援とはまず「課題が見えにくいのが介護」だと認識するところからだと思います。

赤坂介護は特に「親のことは子である自分がやるべき」、「家族だからケアしなければ」と思ってしまいがちですよね。私自身も親に対する申し訳無さが正直あります。きっと世の中の人も同じような苦しみを持つ人が多いと思うんですね。まずは自分がやると不慣れな介護に向き合う中で悩みや苦しみを相談できない、周囲にも気づかれにくい、辛い状況に陥ってしまう。

川内:家族がべったり寄り添ってケアをする、これでは両立どころか崩壊しかねません。近所からは親孝行な子に見られますが、実際家庭の中のことまではわからないですよね。家族の中だけで閉じていって苦しくなりつい手をあげてしまう、そんなニュースも目にすることがしばしばありますね。

この「親のことは子である自分がやるべき」とマインドセットされている構造がよくないんです。ビジネスパーソンの課題解決脳も時には逆効果です。親が弱っていくことに課題設定をして、それを解決しようとPDCAサイクルを回し始める。こうなると高齢者介護はうまくいきません。老いていくことは当たり前なのに、現状を悪化させないようにとひたすら管理、行動制限に向かってしまう。本来介護は、出来なくなっていくことを理解しながら許容し、親の生き方や本質に触れる機会でもあります。介護から見える価値もあるんです。

赤坂:育児も自分だけが担っている状態だと余裕がなくなり、こどもが可愛いと思えない・愛情がないと思い込んでしまう構造、時に思い詰めてしまう事例もあります。保育やシッターを利用し育児が外に開かれることで、心に余裕ができ親の笑顔に繋がり、こどもも笑顔になる。本当に同じことだと思います。

「介護を抱え込まない」をマインドセットできるのは職場だけ

川内:育児もそうだと思いますが、特に家族介護は大変やりがいがあるんです。自分が親の排泄や食事の介助をする、10回に1回でもありがとうと言われる、それはすごい達成感です。

しかし、残念ながらそこを突き進むと家族の関係がうまくいかなくなります。そんなに頑張らなくていいよと周囲が言っても、「わたしがやらないと!」と本人が思っている以上誰も止められません。「良い介護」ではなく「共依存」の状態になります。

このような抱え込む構造になる前に、当事者のマインドにアプローチできるのは「職場だけ」なんです。40、50代の人は地域の福祉政策をよく知らないことが多い。介護について「先手で地域の窓口に連絡するんだよ、外部サービスと連携しながらすべて自分でやらなくても介護はできるんだよ」という情報提供や啓蒙の機能を職場が持つことができれば、介護休業で長期で仕事を離れたり、離職することなく両立する人が自然に増えていくはずです。

まだ親が元気な時にこそ「介護は自分で抱え込まなくていいんだよ」と伝えていくことが大事です。

赤坂:仕事を休職したり辞めたりしてケアしなくても、介護はできるということですね。

 

 

 

川内:できます。現状の全体像を把握して、自分がどの役割を担うとよいかを介護の専門職と相談して決める。自分が担う役割にピンポイントで対応する。休職や離職をしなくても数日の休暇でなんとかできることもあります。自分が親を直接介護することが良いこと・親孝行と無意識に刷り込まれてしまっていることがとても多いので、自分で介護することだけが、「目指す関わり」ではないということを知ってもらいたいです。

 

赤坂:現実的に、「親のためになんとかしたい」と部下から相談される上長の立場を想像すると、家庭内の問題に踏み込むことに躊躇してしまうのではないかと思うのですが、どのように話を聞くのがよいのでしょうか。

 

 

川内:どう介護に関わるのが親孝行だと思っているのかを聞いていきます。自分の不安を解消したいのか、親のためにしてあげたいのか。例えば足が不自由になり、転んだら大変だと監視や行動を制限するのは子のニーズですでも親は今まで通り散歩や庭の手入れをしたいし、転ぶことがあっても生活の自由がほしい。これが親のニーズで本質です。このようなニーズのズレがないかなど、第三者に話すことによって内省が深まり、考えが整理されていくケースもあります。

赤坂:上長も真剣に向き合うことが必要ですね。

保育事業を運営していることももちろん、自身の育児の経験から、「育児における3歳児神話(※)はないこと、プロの保育者や他の大人が関わること、こども同士で関わることがこどもの成長・発達にとってもプラスになること」を自信を持って伝えることができますが、介護に関しては自分自身の言葉で語ることはまだ難しいことに気付かされました。だからできないとするのではなく、介護知識をインプットする時間を設けたいですね。(※3歳までは母親が子育てに専念すべきだという考え方)

川内:まずは自分の親に関する不安を部下と話し合ってみるのもおすすめです。部下と話そうと考えると「何が不安なのか」を棚卸しできます。不安を話すと上司の不安が可視化されるので、部下も上司の不安を客観的に聞くことができます。不安を打ち明けるコミュニケーションをすることで、相談しやすい関係性づくりにも繋がると思います。

 

赤坂:普段からそのような話を出せるような土壌を作っていくことが大事ですね。

必要なのは「制度」だけではなく、わたしたちがつくる「文化」

赤坂:今日お話した介護の考え方は、まだ世の中のスタンダードではないと思います。一人一人ができること、社会全体としてできることが他にもたくさんありそうです。

フローレンスは障害児や医療的ケア児・家庭の支援をしていますが、その子なりの成長・発達がありそれぞれの家族の形、幸せがあります。いろんな家族の笑顔や幸せを社会で支えていきたい。高齢者も同じで、身体が動かなくなってきたり、認知症があるから管理するのではなく、老いを受け入れその後にどのような形で幸せを作っていくか。こどもたちと同じように、高齢者も社会で支えていきたいという決意を新たにしました。

川内:介護そのものの捉え方が、世の中ではまだまだマイナスのイメージです。考え方の角度を変えるアプローチをしていきたいですね。必要なことは制度の拡充だけではなくて、介護に対する認識を少しずつ変えていくことだと思っています。介護サービスをうまく利用しながら豊かに生きていける、仕事があって近くに住むことはできずとも親のことを大事に思う気持ちがあり、自分にできるサポートをして見守る。そんな価値観をもっと醸成していきたいです。

赤坂:老いていくことは怖いことや悲しいことばかりではないですよね。せっかく新しい制度ができても、受け入れていく社会が変わらないと前に進まないシーンを多く目にします。親の介護は子がやるべき、障害児は家でみるべき、その「べき」を変えていくほうがハードルが高いように思います。

 

川内:そうなんです、いくらいい制度を作っても、制度だけでは意味がない。「介護が必要な高齢者は管理監視の対象で、危ないから誰かが面倒を見るべき」という視点がずっとあり、制度が活用されることを阻むことが多いのです。
老いた親の生活の責任を誰が取るのか、という声がありますが、家族がその責任を抱え込む必要はありません。「抱え込まなくていいよ」と誰かが声をかけ、地域・社会全体で支えていく。その人がその人らしく生きていくサポートする文化づくりを、企業や組織が目指せると良いと思っています。

赤坂:フローレンスでも、文化を作るのはこの社会に生きている自分たち一人一人であることを、諦めずに繰り返し伝えたいですね。これからの未来をつくるこどもたちにどんな社会を手渡したいか。私は、大人もこどもも、その人のありのままが尊重される社会を手渡していきたい。介護はフローレンスの直接の事業領域ではありませんが、これからも声をあげていきたいし、まずは自分たちの組織から文化づくりに取り組んでいこうと思います。

わたしたちがあたりまえにしたい介護の文化

・介護の話を気軽に同僚や上司にシェアしたり相談できる環境。介護についての情報や考え方が共通認識として
 社内にあること
・介護は家族がやるべきと抱え込まない。老いと向き合いあらゆるサポートを検討し家族にあった形を
 つくっていく
・介護と仕事は両立できる。介護はなるべく早い段階で地域包括支援センターや介護のプロに相談すると選択肢が
 広がること

事業をつくり、しくみを変え、文化を生み出し、

ともに「新しいあたりまえ」を未来に手渡そう。

フローレンスは2023年、新たなミッションを掲げました。

課題解決や価値創造のための事業モデルをつくり、自ら現場を運営することを強みにしながら、上流の制度や仕組みをアップデートしていく政策提言活動。そしてそうした新しいソリューションの浸透を阻む心理的ハードルも課題を生み出す源流と捉え、価値観の創造や文化醸成にも取り組もうとしています。

こういった活動は、フローレンス一団体で実行できることではなくまだまだ多くの仲間の力が必要です。今を生きるわたしたちと未来のこどもたちのために、新しいあたりまえを一緒につくりませんか。




フローレンスでは、社会問題や働き方など、これからもさまざまなコンテンツを発信していきます。
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