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アクション最前線

2017/12/27

ICOがNPOとソーシャルビジネスに新しい可能性をもたらす:家入一真×駒崎弘樹

 


事業を始めるためには、お金が要るーーそれは、営利企業でも、われわれNPOでももちろん同じです。

しかし、株式公開や社債発行など、資金調達の選択肢が豊富な株式会社に比べて、NPOのとれる選択肢は限られています。助成金や寄付金、あるいはクラウドファンディングといった手段を使い分けながらどうにか回しているというのが実情です。

そんななか、最近注目を集めているのは、ICO(Initial Coin Offering)という資金調達の手法。ビットコインなど仮想通貨の盛り上がりを背景とし、世界中で実施されるようになってきました。

普通の会社だけでなく、プロジェクト単位や個人でも活用でき、全世界から支援を募ることができる。そんな可能性に満ちているという話を聞きますが、実際のところ、日本のNPOがICOで資金調達することはできるのでしょうか? そもそもICOとは何なのでしょうか?

ご自身もクラウドファンディングのサービスを運営し、同時にNPO支援にも詳しい家入一真さんに、フローレンス代表駒崎が、そんな疑問を直接ぶつけてみました。

すると家入さんからは「ソーシャルセクターとICOは相性がいいと思います」という言葉が。いったいどういうことでしょうか?

プロフィール

株式会社CAMPFIRE 代表取締役社長:家入一真(いえいりかずま)

1978年生まれ、福岡県出身。 「ロリポップ」「minne」などを運営する株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業、2008年にJASDAQ市場へ上場。

退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役社長に就任。他にも「BASE」「PAY.JP」を運営するBASE株式会社、数十社のスタートアップ投資・育成を行う株式会社partyfactory、スタートアップの再生を行う株式会社XIMERAなどの創業、現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開なども。

インターネットが趣味であり居場所で、Twitterのフォロワーは17万人を超える。

ICOって、どんなもの?

駒崎:最近は、資金調達の手段としてICOというキーワードもでてきていますよね。先日、ユニセフがICOを検討しているというニュースがあったりもしました。

ただ、言葉だけ広まってもみんなよくわかっていない気もしていて。そもそも、ICOってどんなものなのでしょうか?

家入:新しい概念なので、僕の認識しているICOについての説明になりますけど……

最近ビットコインなど仮想通貨・暗号通貨が出てきてますよね。国が発行しているのではない、バーチャルだけど価値を持っている通貨。ICOはそれを土台にしています。

ひとことで言うと、団体や個人が独自の仮想通貨(コイン)を発行して資金調達するというのがICOなんですね。

たとえば、僕が「家入コイン」を作ります、100万家入コインを作って、そのうち10万を売り出したとする。仮想的な通貨なので、本当のコインがあるわけではなくて、すべてデータのやり取りです。

それに対して1万家入コインを買いたい、1000家入コイン買いたい、などと買い手がつく。これは、たとえばビットコインなど、すでにある仮想通貨で購入してもらうんですけど。

それによって皆さんからもらったお金で何かプロジェクトをする、というのがICOという手法ですね。

この独自に発行された仮想的な通貨を「トークン」と呼んでいます。

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駒崎: 買い手は、すでに保有している、あるいは新しく購入したビットコインなどを使って家入コインを買うというわけですね。

そして家入さんはそのビットコインを現金化して資金が得られるよと。

家入: そうです。家入コインを手にした人に対しては、何かしらメリットが必要になるので、たとえば持っている家入コインの量に応じて家入がアドバイスしますよとか、あるいはなにかのサービスを受けられますよ、みたいにします。

駒崎: 株式で言うところの株主優待に近いものですね。

家入: そうですね。あとは、家入が集めたお金でいろんな活動をして有名になったりしたら、そのうち、家入コインをもっと高値で買いたいという人も出てくるかもしれない。

たとえば1家入コインを1ビットコインで発行してたとしたら、それが2ビットコインでも買いたい、10ビットコインでも買いたいという人も出てくるわけですよね。そうすると最初に買った人は転売することができます

ビットコインなどの仮想通貨の人気の高まりもあって、世界中でICOの人気が高まっています。

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ICOのメリットとは?

駒崎: 一部では「もはやIPO(※)よりICO」という言説すらありますよね。ICOは会社だけでなく、非営利とか個人でもできるし、プロジェクトベースでもできると。

※IPO:Initial Public Offering、株式会社が、株式の新規発行売り出しによって資金を調達すること

背景にはやはり、資金の移動が簡単になったことがあるんですかね。

家入: そういうことですね。たとえばの話ですが、アフリカで立ち上がったプロジェクトに対しても、日本からビットコインを送金すれば、コストはほぼかからない。最初からワールドワイドで資金集めができる

駒崎: これが銀行振込だと、対応できる銀行が限られてたり、手数料をたくさん取られたり大変だったりするわけですよね。

いっぽうで株式を発行するとなるとまた、それなりの高額じゃないと調達できないし、証券会社に対応してもらうことが必要になるし。それがICOだと数十万、数百万とかいうレベルからできるわけですよね。より「金融が民主化されている」という印象を受けます。

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家入: そうです。トークンを売り出すにあたって、買い手にどんなメリットがあるかは、ホワイトペーパーという事業計画書のようなものを作るんですが、それも最初から多言語対応して、全世界でお金を集めたりしています。国に閉じたものではなく、国境を超えている感じですね。

駒崎: なるほど。NPOはこれまで、IPOできず、事業をしようと思ったら借りるか、クラウドファンディングをするか、あるいは助成金かしかなかったけど、ICOも選択肢になりうるということですかね。

たとえば、フローレンスが「フローレンスコイン」を発行して、コインを買ってもらった方にはこういう優待をつけますねというような、疑似株式上場みたいなこともできるかもしれない。

家入: いつか実現できるといいと思います。NPOは株式を発行することは法律上できないですけど、ICOという仕組みが生まれたことで、トークンを発行してNPOでも資金を集められる可能性が出てきた。

大事なこととしては、基本的に見返りのない寄付とは違って、フローレンスコインというトークンを渡すことになるので、それを持っていることのメリットも生まれるはずなんですね。たとえばフローレンスへの支払いに使えたり、なんらかのサービスを受けられたり。

ただし、株式の場合、大株主になって経営に口出しするということがありますが、ICOで発行されるトークンは株式と違って会社の所有権ではないです。なので、フローレンスコインをたくさん持っている人が偉いというわけでもない。もちろん大口保有者の方への優待を設定することもできますね。

駒崎: 株式だと議決権とかが付随するから、経営者としては大変なところもあるけど、ICOだったらトークンの価値を自分たちで設計できると。なるほど、それは未来がある気がしますね。

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投資と寄付がグラデーションになる

家入: そして、トークンを持っているということで、応援が可視化されるので、クラウドファンディングや単発の寄付のように一過性で終わらないというところもポイントです。

それが、ソーシャルセクターこそICOが合っていると僕が思う理由です。

駒崎: 団体を応援するという意味で擬似株主のようになれるということですね。面白い。

実際にICOを行おうとしたら、どんな制度があってどんな流れになるんですか?

家入: いま、その分野で法律などを整備しようとしているところですね。世界的にも、本当に動きがはやくて、追いつくのが大変です。

けっこうごっちゃにされてることが多いんですけど、ICOは、最初にトークンを発行するということと、トークンを転売したり相対で取引するということは、フェーズが違うんです。

駒崎: なるほど、株になぞらえて言うと、未公開株と上場株みたいな感じですかね。トークンを発行するのと、トークン自体が取引される状態になるかどうかは別フェーズと。

家入: そうですね。フローレンスコインを発行したとして、それが取引所で売買できるようになるとは限らない。そこが難しいところではあります。

取引所で売買できるというのは重要なところだと思っていて。ソーシャルセクターがICOするとよいと思うもうひとつの理由は、単純にフローレンスのファンとか利用者というだけでなくて、フローレンスの価値が上がることを期待して「あわよくばトークンを転売して儲かったらいいな」という人もはいってくることがポイントだと思うんです。

そういう、純粋な応援とか支援だけじゃなくて、値上がり期待のお金も入ってくることで、NPOが調達できるお金は桁が変わるんじゃないかと。

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駒崎: たしかに、間口が広がりますね。

いまは、寄付と投資は、かなり離れている、あるいは真逆のように思われているけど、それが段階的に、グラデーショナルになる。「投資になったらいいなと思う寄付」みたいなものができていくと。そこに位置しうるのがICOで発行するトークンということですね。

すごく革新的ですね。実際、人の動機っていろいろでいいと思うんです。純粋に寄付したいのも素晴らしいけど、そういう人ばかりでもないし、そういう純粋な寄付のお金しかもらうべきではないということでもなくて。その間に位置するものがあってよかったのに、これまでは包摂できてなかった。

家入: たとえばNPOバンクは、一般の人からお金をあずかり、そのお金でNPOに融資するわけですよね。

お金の出し手も、必要になればお金をすぐ返してもらえる。寄付じゃなくて融資だから。

NPOバンク自体は、たとえば僕が100万円貸して、3年後に返してもらうと、戻ってくるのは100万円なんですよね。利回りはのってないので、いわゆる金融商品としては成り立っていない。でも、その100万円が、いろんなNPOを循環して、受益者の方を支援して、社会を1%でもよくしたとすれば、それを利回りと考えることはできると思うんです。

寄付と融資、投資の垣根がグラデーションになっていくと、たとえば、社会がよくなることを利回りとして考えて、NPOバンクみたいなものにお金をまわすという選択をする人も増えるんじゃないかと思っていて。

それがビットコインでも、別の仮想通貨でも、フローレンスコインでもいいんですよね。お金を寝かしているだけじゃなくて、流動させていくということが大事だと思うんです。

駒崎: 未来感にあふれてますね。

トークンを通して、体温ののったコミュニティを

家入: ただ、ICOの話に戻ると、いきなりそんなに大きくやらなくてよいと思っているんです。

いま、ICOって、世界で、百億とか数十億集まりましたみたいな「お金がたくさん集まる」という視点で見られてますけど、加熱しすぎている感もあって。そのせいで詐欺的なものも出てきています。

大きなお金を集めようとすると荒れるという見方もあるので、小さく、既存の寄付者さん向けに行うというやり方もあると思います。

僕の好きな例として、サンタルヌーという名古屋のベルギービール屋さんが、東京進出のためにトークンを発行して1300万円くらい集めたというのがあります。ICOの中ではすごく小さい規模。

トークンを買ったのは、もともとのサンタルヌーファンで、「応援するよ!」という気持ちで支援してくれていて。そのトークンを持っているとサンタルヌーのお店で最初の一杯が無料とか、内部のパーティに参加できるとかの特典があって、とてもよい、小さな経済圏な感じだと思ったんです。

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駒崎: そういうの、あたたかい、体温がのっている感じがしますね。

「これが新しい投資だ!」みたいに、金融系の人がオラオラ来て踏み潰されるような世界だと、あんまり未来って感じがしないけど、小さくてもコミュニティを作って地に足をつけて、体温を感じながら取り組める気がします。NPOが目指すべきはそっちなんじゃないかな。

NPOの場合、株式も社債も発行できないので、今までは寄付以外で多くの人に継続的にお金を通じて応援してもらうということもなかなかできなかったんです。

それを、トークンを持ってもらって、つながりを作っていくというのは、ソーシャルビジネスを加速させると同時に、体温ののったコミュニティを作るためのよい手法になりそうですね。

実際、CAMPFIREではこれからNPOのICOを事業で支援していったりするんですか?

家入: ICOのトークンセールスはクラウドファンディングの亜種だと思っていて。

クラウドファンディングは「3000円の支援ならTシャツ」みたいな支援に応じたリターンでしたけど、それがトークンになっただけで、クラウドファンディングと本質的には変わりないんですよね。だから僕らもこれをサポートしていくべきかなと検討はしています。

お金のあり方の変化を拒まず、抱きしめよう

駒崎: なるほど。いっぽうで、ICOの土台になるビットコインなどの仮想通貨に目を向けると、まだ誰もが仮想通貨を持っているわけではないですよね。ビットコインがSuicaみたいに買い物で使えたりと、生活に浸透していくということはあるんでしょうか。

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家入: 実際、ビットコインがお店での買い物で使われる機会はとても少ないらしいです。いまはほとんどは投機目的のようですね。従来のFXとか株みたいな感じでやっている方が大半だと思います。

たとえばApple Payみたいな、スマートフォンのウォレットで買い物している人はけっこういるんじゃないかと思います。スマホ決済は今後増えていくと思うので、ビットコインがスマホのウォレットにチャージする手段になれば状況がかわるかもしれません。

実際そういう仕組みも出てきているようですよ。たとえばバンドルカードという、チャージができるVISAカードがあります。あらかじめお金をカードにチャージしておいて決済に使えますというサービスなんですけど、そこで、ビットコインによるチャージも扱っているんですね。

駒崎: ウォレットにチャージされたもとがビットコインなのか日本円なのかとか気にしなくなるかもしれないですね。キャッシュレスが進んでいくと、お金自体バーチャル化していくから、通貨を気にしなくなる。

家入: たとえば最近話題のCASHも、商品を写真で送って現金化できる、というものなんですけど、持っているものの写真を撮って送ると、そのお金がCASHのアプリの中に入るんですね。それを申請して引き出すこともできるんですが、そうじゃなくてCASHのアプリの中にさっきのバンドルカードみたいな決済の仕組みを埋め込んでしまえば、現金に変えなくてもそのまま使えます。

フレンドファンディングの「polca」も同じで、たとえば「これから深夜バスに乗って地元に帰らないといけないのに財布を落としてしまった」みたいなときに、polcaで友達から1000円ずつ支援してもらって、そのお金でチケットを買える……みたいに、将来的にはできると考えています。今までの銀行口座だと、夜間の送金ができないし、コンビニのATMも引き出せない時間帯があったりするじゃないですか。

駒崎: なるほど、もうATMから現金を引き出して、ではなくて、全部スマホの中のアプリやウォレットで済ませる。金融のあり方がもっとマイクロに、リアルタイムでなめらかになっていくかもしれないと。

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駒崎: NPO目線ではたとえば、街頭募金もキャッシュレスで、QRコードで、とかできるかもしれませんね。街頭募金ってすごく大変なんです。現金をどう管理するかとか。それがQRコードだけでよければ、いろんなクリエイティブな街頭募金ができますよね。

家入: そうですね。たとえば、地方の駅前とか行くと、小学生がずらっと並んで「寄付してください!」と叫んでますよね。それはそれでいいんだけど、寄付するとみんなから「ありがとうございます!」と言われるのとか、「わー、やめてください!」って恥ずかしくなっちゃう(笑)もっとスマートに寄付したいというか。

駒崎: そうですね。それに、現金だけだと、「あの団体すごくいいな、もう一回寄付したい」と思っても、そのとき募金を集めてる人がそこにいなければ、できない。街頭募金も電子化されれば、継続で支援する仕組みを作れるかもしれない。

しかし、そんな風に現金の扱いが減ってくると、銀行ってなんの意味があるんですかね?

家入: なので、銀行もいろいろベンチャーと組んで、銀行だからこそできることを探ってやっているみたいです。

危機感もあると思います。人員を大規模に削減するという動きもあるし、窓口業務とかもなくなっていくでしょうし。

大事なのは、テクノロジーで人が削減できるという危機感を煽るのではなくて、人がしなくていい仕事を任せて、人間だからこそのクリエイティブな仕事をしよう、ということじゃないかなと。

駒崎: 現金がなくなって怖い、じゃなくて、新しい寄付のいただき方ができるかもしれないし、前向きにとらえるのが大事ですね。僕は、良い未来が待っているなという気がする。

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家入: テクノロジーやフィンテックは、いろんなものが変わっていくことでネガティブに捉える人も多いですが、変わること自体はある意味避けざるをえない、やがてやってくるものだと思っていて。

それを嫌だというのではなくて、そのなかで自分は何ができるかを考えたほうが結果的にはプラスになると思うんです。楽観とか悲観でなくて、どう自分が向き合っていくか。そういう態度でありたいと思ってます。

駒崎変化を拒絶するのではなく、変化を抱きしめていくという姿勢ですね。

家入: まさに。いい言葉ですね。

駒崎: 今日はどうもありがとうございました!

(了)


投資と寄付がグラデーションになっていくことで、お金や、その使い方に対する価値観もこれから少しずつ変わっていくのかもしれません。きっと、社会を良い方に変える可能性を秘めているのではないでしょうか。

■参考図書

駒崎が寄付という観点から、社会におけるお金の価値について語ります。寄付は未来への投資である、ということがよくわかる一冊です。

家入さんの、金融包摂をテーマにした書籍。金融包摂という考え方に至った背景がていねいに説明されています。

また、フローレンスでもフィンテックをファンドレイジングに活用しています。Amazon Payで寄付すれば、連絡先やカード情報の入力は不要。Amazonアカウントにログイン後、数タップで寄付が完了します。

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