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アクション最前線

2019/02/20

「散歩も趣味も自由」なオランダの認知症ケア施設が、本人の自由意志を尊重する理由とその実現方法【オランダ視察レポート3】

 


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オランダは何より本人の自由意志を尊重するーーそんな言葉を、視察のオリエンテーションや参考図書で何度も目にしました。

言葉だけ聞くと、そりゃまあ、そうじゃない?と感じてしまうし、それほど難しいことでもないように思えます。

でも、認知症の高齢者に対しても、それができるか、と言われたらどうでしょう?

簡単に「できます」と答えられる人はあまり多くないでしょうし、もしかしたら「そんなことはできない」と言う人もいるかもしれません。

しかし、2018年9月に視察したオランダのとある施設では、そんな難しそうなことを、ビジョンを持って実践していました。

認知症を患う高齢者の人たちでも、その意思を尊重し、生活の、人生の質を高めていく。なぜ、そんなコンセプトの施設が生まれたのでしょうか?そして、どうやってそれを実践しているのでしょうか?

今回はそんな視察レポートをお送りします。

※フローレンスでは2018年9月、オランダのシンクタンクや福祉施設に視察に行ってきました。視察の目的、またオランダの注目すべき社会背景などについては、こちらの記事をご参考に!

フローレンスがまた、オランダに視察に行ってきた理由【オランダ視察レポートその1】

認知症高齢者の養護施設 De Hogeweyk

訪問したのは、認知症の高齢者の方々が暮らす養護施設、De Hogeweyk(デ・ホーフウェイ、以下「ホーフウェイ」)

認知症の高齢者が暮らす施設と聞くと、病院や老人ホームのように「単一の建物とその敷地内に閉じる」というイメージがあるかもしれません。

しかし、ホーフウェイはそうではありません。その特徴は、主に以下の3点。

・「ビレッジ型」とも呼ばれ、一定エリア内に認知症の高齢者(クライエント)の居住する住宅と、買い物やレクリエーションができるお店などが併設している

・住居では、6〜7人の入居者がスタッフのサポートを得ながら共同生活を送っている。

・入居者はエリア内で、買い物をしたり趣味の活動をしたりと、可能な限り本人の意思と選択が保障されている

日本の感覚だと、ちょっと想像がつかないかもしれません。それぞれ具体的に紹介していきます。

※施設内で入居者の方の写真は取れません。冒頭の写真は実際の施設の写真ではありません

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ホーフウェイでの暮らし

ホーフウェイでは、認知症を持つ高齢者の方々が、一つの住宅で6〜7人の共同生活を送っています。

もちろん本人たちだけで暮らしているわけではなくケアテイカーと呼ばれる介護スタッフが各家に担当として配置され、生活の手助けをしています。ケアテイカーは、オランダの介護士の資格をもち、持病などの与薬をすることができるスタッフ。このケアテイカーは、お風呂の介助などといったことだけでなく、料理や家事なども担当します。

ケアテイカーのほかに、ホームサポーターという、食事準備や掃除洗濯など、より家事に近い仕事をするスタッフも配置され、6〜7人の入居者に対してケアテイカー1人、ホームサポーター1人の体制でケアを行なっています。ケアテイカーとホームサポーターの上には医師などの専門チームがいる、という体制です。

ちなみに、オランダではパートタイムで働く人が多いので、実際にはケアテイカーとホームサポーターはシフト制で合計6〜8人となり、一つの家にたくさんのスタッフが関わることになります。

ホーフウェイには、この6〜7人の共同住宅が全部で27あります。国から認知症ケアのために出る予算は、どういったケアの在り方でも同じですが、この共同生活と家での食事というスタイルは、実は経営効率上も良いのだそうです。

なお、夜間は夜間専門の対応チームがおり、各家の廊下にモーションセンサーがあったり、部屋にはマイクも設置されているなど、ITを活用して入居者の安全を確保しています。

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入居者一人ひとりの背景を尊重するライフスタイルマッチング

ホーフウェイの最大の特徴は、この共同生活において、「ライフスタイルが合っている人をグルーピングする」というやり方です。

グループは「都会的」「伝統的」「コスモポリタン」「フォーマル」の4つに分かれており、入所時のヒアリングや、家族との相談、家庭訪問などもした上で決めています。

ケアテイカー、ホームサポーターとも、住み込みではありませんが担当の家が決まっています。視察に対応してくれたスタッフの方は言います。

一人ひとりの入居者の生い立ちや歴史などといった「ライフストーリー」を知っていることが大事なんです。家事に入居者自身も参加することもありますし、自分で自分の生活に主体的に関われます。

他の事業者でも少人数の共同生活というやり方を真似しているところもありますが、それだけではダメです。ライフスタイルマッチングこそが、入居者の生活の質を高めるのです。

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(ホーフウェイを上から見た図)

認知症の高齢者でも、「自由に歩き回り、外とつながれる」

共同生活に加えて特徴的なのは、ホーフウェイのエリア内には住居だけでなく、買い物ができるお店や、趣味の活動ができるさまざまな施設があるということです。

各家のスタッフが食事の材料をエリア内のスーパーに買いにいき、その時に入居者を誘う、などといったこともしているのだそうです。ただの施設ではなくコミュニティとして、人とのつながりや社会と関わるということを大切にしているということなのでしょう。

実際にはエリア内のスーパーは、施設運営者から見ると「倉庫」。献立を考えて、食材を発注しておき、スーパーにとりにいく、というのを買い物に模しているということでした。さぞ栄養管理もしっかりしているのかと思いきや……

基本的に食事の栄養チェックはしません。栄養士は施設に1人だけいます。入居者はそれなりの高齢者が多いですから、そういった人たちに食事を制限させて栄養管理しても、トータルとしてメリットは少ないと考えています。

食事も含め、本人のライフスタイルを尊重するのが大事です。

なんと、こういったところも一般的に想像される入居施設とは違いますね。

買い物以外にも、エリア内で入居者のためのさまざまなアクティビティを行っており、家の近辺にはそのための施設も設置されています。

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(クラシック音楽好きの部屋)

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(催し物をするホール)

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(お菓子づくりなどをする部屋)

こういったアクティビティに参加してもらうのもケアワーカーの役割なのだそうです。

アクティビティは入居者が料金を払って行うものもありますが、運営にはボランティアが関わっており、その数は140人ほど。アクティビティを行うクラブ活動の数も30近くあります。

また、ホーフウェイ内のレストランやスーパーに、外部の人(近隣住民など)が食事や買い物に来ることもできます。そのため施設内に閉じない交流も生まれやすくなっています。

散歩も食事も、本人の思いのままに

こういったケアの形が実現できるのは、オランダの医療制度も深く関わりがあります。入居者一人あたりに対して国からホーフウェイに支払われる補助は1日あたり250ユーロ、1年だと75,000ユーロ(他に、収入に応じて入居者からもらうお金もあります)。

オランダの場合、費目の細かい決まりはなく、トータルのお金で事業者に支払われ、それをどのように使うかは事業者に任せられているのだそうです。それが、独自の取り組みがしやすい環境に繋がっているのです。

あまりにも想像していた認知症ケア施設のイメージと違います。例えば、入居者が歩き回って転んでしまったら……というリスクはないのでしょうか?それを不安に思う家族の方もいそうです。

確かに転ぶリスクはあります。入居者とその家族に対しての説明としても、「転倒などの事故は絶対にない」という約束は、しません。そういった説明の上で入居してもらっているので、家族から訴えられたこともありません。

ちなみに実際には、日々歩いていることで転倒事故が減る傾向があるんです。

ホーフウェイは普段の生活で歩いたり、アクティビティに参加したりすること自体が運動になるので、運動リハビリが他の施設に比べてそれほど必要ではないんです。

同じくらいの規模の施設だと普通、理学療法士が4人くらいいてリハビリを行っていますが、ホーフウェイの場合は1人しかいません。実際に入居者の中で運動のリハビリを受けている人も数人程度です。

本人の自由意志を尊重するのがオランダの考え方だとは聞いていましたが、認知症ケアという分野でもこんな風に実践され、しかもそれが入居者のためにいっそう良い影響を与えているとは、驚きでした。

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(視察時の様子)

認知症患者にも自己決定を、という課題意識

こんな先進的なホーフウェイですが、どのような課題意識からこんな施設コンセプトが生まれたのか、視察担当の方が教えてくれました。

ホーフウェイが生まれたのは1993年。それまで、認知症ケアの施設は、とても「家」と呼べるものではありませんでした。入居者は「そこに座っていて!」と指示され、病院の入院患者のように過ごすのが普通だったのだとか。

そんな中で他施設との差別化として出てくる施策は「食事は腕のよいコックが美味しいパスタを出しますよ」といったような高級化志向。でも、「そもそもパスタなんて食べたことない」という入居者も多く、そういった人にはストレスでしかありません

そんな特別でストレスの多い環境ではなく、もともと送っていた生活の延長としてケアがあるべきなのではないか、という課題意識から、ホーフウェイは生まれました。

入院患者のような生活が多かった認知症ケアで、「部屋から出たら外」という環境は、当時の業界からすると前代未聞だったと言います。

自由に歩き回れることについては「そんな危ないこと、ありえない!」というのが多くの人の反応でした。

しかし、認知症の人も、その人のやりたいことはあります。自己決定できること、本人の自由を保障することが大事で、それこそがクオリティ・オブ・ライフにつながるのです。大切なのは、病気ではなく、人間なのですから。

この考え方をベースに着実に事業を広げ、今ではホーフウェイのやり方は世界から注目されています。

現在ではオランダに合計8箇所、施設があり、オランダ以外でも、ホーフウェイのコンセプトに沿った取り組みを、イタリアやカナダなどで始めているとのことでした。

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(イメージ画像です)

ケアを続けていくために「毎日ビジョンを伝える」

どうやったら、こんなにしっかりしたコンセプトを維持して、ケアの事業を継続的に運営していけるのでしょうか?

保育園や障害児の訪問保育などを行っているフローレンスの一員としては、スタッフがどのようにこのコンセプトを腹落ちさせ、日々入居者に向き合っているのかとても気になるところです。

スタッフのトレーニングについては、ビジョンの共有が一番大事です。ケアワーカーが家事をするというのは、クラシカルな施設、ケアとは違います。そのコンセプトを説明し、私たちが目指すビジョンを、毎日伝えていかなければいけません。

新しく入社した社員がホーフウェイの価値観を腹落ちさせるには、5年ほどかかることもあります。新しく入社した社員に、OJTの項目の一つとして、毎日ビジョンを伝えています

新入社員でなくても同じです。なぜ私たちがそれをやるのか、日々伝え続けています。ビジョンを口にするということをやめたら、きっとすぐ普通の施設に戻ってしまうでしょう。

フローレンスも、さまざまな団体ビジョン浸透のための取り組みを行ってきましたが、大きなイベントや単発の施策で何かをするよりも、毎日伝え続ける、意識し続けることが大事というのを痛感しています。まさにその通りだなと感じました。

さいごに

「”病気”や”患者”ではなく人間を見て、その人の意思を尊重する」

言葉で言うのは簡単ですが、ケアの仕事の中でそれを実践していくのは、簡単なことではないでしょう。

ホーフウェイの場合は、本人の意思を聞き、実現させるのが難しいと思われている認知症の高齢者に向き合い、自由意志の尊重のためにさまざまな工夫をしていました。

翻って、子ども達はどうでしょうか?保育園や病児保育など、未就学児や小学生のケアを事業として行っているフローレンス。子どももまた、本人の意思を尊重して受け止めることが、その成長のために重要であることは間違いありません。ホーフウェイの理念から学ぶことは多そうです。

実際に、みんなのみらいをつくる保育園では、サークルタイムなどの取り組みを行い、子ども達一人ひとりの思いを大切にしながら保育をしています。きっとこういった取り組みは、意思の尊重と通じるところがあるのだろうなと実感しました。

さて、まだまだオランダ視察レポートは続きます。どうぞお楽しみに!

参考:Hogeweyk(英語サイト)

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書いた人:橋本 吉央


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