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働き方改革

2019/04/22

看護師が経営も採用も人事もやる「セルフマネジメント」、その実態を聞いてきた【オランダ視察レポート5:ビュートゾルフ】


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「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」

写真の笑顔と裏腹に突然の織田裕二で失礼します。ドラマ「踊る大捜査線」の主人公青島刑事の代名詞と言えるかもしれないこのセリフ。実は初出はドラマではなく劇場版で、公開は1998年。20年前とは、なかなかにショッキングです。

なぜ突然そんな話をするかというと、今回の記事のテーマと関わりがあるからです。

平成が終わり令和を迎えようとする今でも、このセリフがよく引用されるのは、きっと「現場を知らないバックオフィスが何かを決める」という組織構造の問題に共感する人が多いからではないでしょうか。多くの保育現場があるフローレンスでも、現場と事務局のコミュニケーションや役割分担について、悩みはつきません。

そんな中で耳にしたのが、「10,000人の看護師に対して数十人のバックオフィスという訪問看護会社がオランダで超いい感じに成長している」という噂。ケア方針を決めるのも、メンバー採用も、果てにはチームの解散まで、全部現場の看護師が考え、決めているのだとか。

きっと青島刑事もびっくりな、自分で自分をマネジメントし意思決定し続ける、注目の訪問看護会社「ビュートゾルフ」に、はるばるオランダまで視察に行ってきました。自分たちの給与まで全部現場の看護師で決めているというのは本当なのか?どうやったらそんなことができるのか?注目のレポートをお届けします!

次世代組織で拡大する、訪問看護会社ビュートゾルフ

オランダの訪問看護会社であるビュートゾルフ。その社名はBUURT(近隣)、ZORG(ケア)というオランダ語の組み合わせで、地域密着型の訪問看護ケアを行うことをミッションとしています。2005年に立ち上がり、今では10,000人以上の看護師が働く、オランダ1の訪問看護事業者です。

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https://www.buurtzorg.com/より

その特徴は、医療・介護が統合された切れ目ないケア、本人と地域の力を引き出す支援(クライエント中心主義)、自律した専門職によるフラットな組織運営など。地域包括ケアシステム構築に向けた理想的なあり方として、オランダ国内のみならず、日本を含めた全世界の医療業界から注目を浴びていました。

そんなビュートゾルフですが、2018年に出版された『ティール組織』という次世代の組織のあり方を取り上げた書籍の中で最も成功した事例のひとつとして紹介され、ビジネス、組織開発の分野からも一気に注目が集まりました。

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キーワードは「セルフマネジメント(自主経営)」

スタッフ、マネジャーといった階層構造を持たず、現場で意思決定がなされ、それにより組織が回り、そして拡大しているーー『ティール組織』を読むと、そんな理想の組織像が脳裏に焼き付きます。い、いけてる・・・

※ティール組織については、こちらの解説記事がよくまとまっているかと思います。興味がある方は書籍を読んでみても良いと思います。
https://nol-blog.com/what_is_teal_organization/

そのセルフマネジメント、マネしたい

結論から言うと、そんなビュートゾルフに視察に行ったわけですが、その背景にはわれわれフローレンスの課題意識がありました。

(1)現場と事務局の役割意識

認可保育園、障害児保育園合わせて20以上の保育現場があり、訪問型の事業も合わせると500人近くのスタッフが保育の現場で働いているフローレンス。

現場と事務局の間に壁ができないよう、園長やリーダーを中心にコミュニケーションの取り方を工夫してはいるものの、「事務局で決まったことが現場に伝達され、おりてくる」という一方通行のコミュニケーションとマネジメントになってしまうこともあるのが実情です。

子育てに関わる社会問題を解決するためのヒントは、現場にこそあるはず。もっと現場主導で、日々の保育や地域、親子との関わりのあり方を変え、決めていってもいいのではないか?そんな漠然とした問題意識がありました。でも、それってどうやったらいいのでしょうか。

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(2)「大企業病」にかかりかけている?

2004年に立ち上がったフローレンス。15年でスタッフ数は現場・事務局合わせて600人超となりました。あるときのスタッフアンケートでは「大企業化して、管理されている感じがする」という意見も。

ソーシャルベンチャーとして、スピーディに柔軟に事業を推進していくことを目指すフローレンスが「大企業っぽい管理」でいいのだろうか?

こういった課題に向き合うためのヒントを得たい、というのが今回のオランダ視察の目的でした。

ビュートゾルフ視察に持っていった「問い」

ビュートゾルフのセルフマネジメントを見にいくに当たって、視察チームは事前に書籍や参考文献を読み、その上で3つの確認ポイントを設定しました。

問い1:組織文化の維持・浸透方法

それぞれのメンバーがそれぞれの状況に応じて適切に判断し、事業を進めていくセルフマネジメント。

素晴らしいことですが、個々が独立していく中で、組織として共通の文化や風土といったものがなくなってしまう、現場が組織のビジョンから離れていってしまうといったことはないのでしょうか。

いったビュートゾルフは、現場のセルフマネジメントと、組織文化の維持浸透をどのように両立させているのでしょうか。

問い2:評価・処遇の決定方法

管理者がいないということは、評価者もいないということです。ビュートゾルフにもバックオフィスはありますが、現場の看護師の評価や処遇の決定はその対象外とのこと。

そうなると、メンバーはどのように組織の中で評価され、そしてどのように給与などの処遇が決定されるのでしょうか。人事評価や昇給といったセンシティブな業務も、現場のセルフマネジメントで回っていくのでしょうか。

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問い3:旧意思決定者の役割

セルフマネジメントが徹底されると、管理職や経営層が果たしていた「意思決定する」という役割が現場におりていきます。

ビュートゾルフでは、新しくチームを作るのも現場、日々の看護を運営していくのも現場、評価も処遇決定も現場、さらに言えばチームを解散すると決めるのも現場です。

さて、そうなると、経営者はいったい、何をしているのでしょうか?

視察でビュートゾルフ創業者に聞いてみた

そんなわけで、オランダのビュートゾルフ本社にはるばるやってきました。

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お話を聞かせてくれたのは、創業者の一人であるアルトさん。ビュートゾルフの経営者は、自身も看護師であった代表のヨス・デ・ブロックさんが有名ですが、アルトさんも立ち上げから参画し、経営者の一人として今も視察などの受け入れをしているそうです。

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質問をするのに一生懸命になって、いい感じのカメラ目線写真を撮ってこれなかったのが心残りです・・・

さて、先ほどあげた質問を、アルトさんに実際にぶつけてみました。

問い1:組織文化の維持・浸透方法→答え

開口一番「ビュートゾルフが組織として大切にしていること、組織を横串で通す理念ってなんなんですか?」と質問すると、こんな答えが返ってきました。

アルトさん「セルフマネジメント自体が、ビュートゾルフの組織のあり方です」

言ってみれば「理念」が「手段」とイコールであるということ。確かに実践できれば強力ですが、いったいどのようにして?さらに話を聞いていくと、セルフマネジメントを組織の端から端まで浸透・実践させきるための仕組みがさまざまに整えられていました。

(1)チームが何を目指すか、シンプルで明確な目標ダッシュボード

自分が訪問看護で働く看護師だったとして「患者のケアに加えて、財務や生産性、チーム構成も自分たちで考えて管理してね!」と突然言われたらどうでしょうか。だいぶ難しそうですよね。

日々の看護がそれが収入とコストだとどういう意味を持つのか、生産性は高いのか低いのか、現場の看護師が簡単に判断できるのでしょうか?

アルトさん「必要になるのは、目指すべき目標、数値としてみる指標です。

ビュートゾルフでは、地域ごとの小規模チームで動きますが、チームの経営指標を共通化し、ダッシュボードとして現場のチームメンバーが常にモニタリングできるような仕組みを作っています」

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実際に画面のサンプルも見せていただきました。管理している指標は以下の通りです。

クライエント満足度(ビュートゾルフ全体の平均との比較もできる)

生産性(労働時間のうち、看護ケアとして国に請求できる時間の割合。約60%を超えていれば財務的に問題ない)

患者の症状の種類(慢性病、認知症、回復中、ターミナル、病気ではないが高齢なので要介護的、の5種類。ケア対象が偏らないことが望ましい)

請求時間と人員数の比較(何人でどれくらいのケアを行なっているかの管理。チーム人員増減の検討のため)

有給休暇の取得状況

国に報告するインシデント

品質、生産性、労務といったマネジメントのポイントが見える化されており、現場の看護師は、これらの指標をもとに、自分たちの看護業務を日々メンテナンスしていくわけです。

アルトさん「各指標ごとに、ビュートゾルフとして定めた目標の値がありますが、目標を下回った場合も、事務局から指導やアドバイスはしません。目標未達成だった理由をチームで考え、対策をしていきます」

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とはいえ、赤字続きのチームを完全に放置しておくこともないでしょうし、何かしらの介入はあってもいいのでは、と思いますよね。

アルトさん「はい、3ヶ月連続で財務的に問題のあるチームは、本部から人がいき『どうする?』と聞きます

え、聞くだけ、ですか?

アルトさん「はい、聞くだけです。あとはチームが考えます」

・・・これだけ「現場で決める」が徹底されているのはすごいことです。自己決定を大事にするオランダの国民性もあるのかもしれませんね。

(2)小規模チームと役割のガイドライン

経営の見える化の他にも、さまざまな工夫がありました。

アルトさん「ビュートゾルフの看護師チームは、1チーム最大12名と決まっています。人数が多すぎると、チームのセルフマネジメントが立ちいかなくなるためです」

加えて、訪問看護事業を運営するためには、ケアプラン策定、医療機器の調達、新人の育成、請求など、患者のケアにとどまらないあらゆる業務をチーム内で行う必要があります。そのため、チームには以下のような役割のガイドラインがあるそうです。

・プランニング(患者のケアプラン作成)

・アドミニストレータ(管理、記録)

・メンター(若手指導、実習担当)

・イノベータ(新しいやり方、テクノロジーを取り入れる役割)

・ファシリテーション(ファシリテーター、総務)

・アセスメント担当(ケアマネージャー的な業務)

アルトさん「チームは最大12人ですが、もっと少ない場合もあります。パートタイマーも多く全員がフルタイムであることはほぼありません。なのでこういった役割ガイドラインを決め、患者のケアそのものの周辺環境を整えることが大事です」

セルフマネジメントといっても完全にゼロから現場にお任せではなく、人数や役割の枠組みがあることで、チーム運営が円滑に進むのですね。

(3)ナレッジシェアも徹底したICT化

セルフマネジメントに適した小規模チームですが、最大12人という限られたメンバーでは、専門性が必要とされる疾患の対応などでは、チーム内にナレッジがなく手間取ることもあるかもしれません。そんな問題はないのでしょうか?

アルトさん「ビュートゾルフでは、所属するどの看護師がどんな分野に詳しいかということが社内のイントラネットで簡単に探せるようになっています」

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実際に画面を見せてもらうと、マップのピンが看護師の所在を指し、どんな専門性があるか、連絡先などがすぐに調べられるようになっています。数多くの看護師が所属するという強みを活かし、相互のアドバイスが行いやすい環境が作られています。

また、疾患や症状についてのデータベースもイントラネット上に整えられており、適切なケアのやり方などがオンラインでアクセスできるようになっています。

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疾患ごとにメニューがあり、クリックするとそれぞれ詳細が参照できるようになっています

(4)採用・育成もe-ラーニングで

ビュートゾルフでは、メンバーの採用や育成も全てチームの裁量に任されています。しかしどのようなプロセスで新しいメンバーを採用し、育てていくのか、看護に専門性をもつチームメンバーだけで考えて実行するというのは簡単ではなさそうです。いったいどうやって?

アルトさん「採用面接のやり方など、業務上必要になる研修は動画コンテンツ化し、イントラネットにアップされています」

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ここでもICTをフル活用した仕組み化が行われていました。

さらに驚いたのは、採用面接といったいかにも業務的なことだけでなく「チーム内で意見の相違が起こった時の問題解決の方法」といったことまでe-ラーニングされているのだそうです。

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人を採用し、患者のケアを行い、請求するといった機能的なことだけでなく、メンバーのコミュニケーションを円滑にするという非機能的な部分までコンテンツ化、仕組み化してクオリティをあげるというアプローチはなかなかすごいですね。

ちなみに、e-ラーニング化されているものだけではなく、ちゃんと研修費もチームごとに確保され、外部の研修なども受けられるようになっているそうです。

(5)社内SNSで全社横断コミュニケーションと経営者からのメッセージ

チームごとのマネジメントで運営がうまくいっているとはいえ、経営者やバックオフィスとのコミュニケーションが全くできないということでは、それはそれで困るのではないでしょうか。そういった機会はないのでしょうか?

アルトさん「ビュートゾルフでは社内SNSがあり、チーム横断のコミュニケーションや経営陣からのメッセージを一人ひとりが読むことができます」

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こちらも実際に画面を見せてもらいました。先ほどの看護師所在一覧で、アドバイスが欲しい相手が見つからなかった時は、社内SNSに書き込みをしてアドバイスをもらうということも可能になっています。

またこれに加えて、リアルにスタッフが集まる全社会議も定期的に開催し、さらにその内容を動画化してイントラネットにアップしているそうです。

このように、ICTを活用しながら、コンテンツやガイドラインを適切に設定し、セルフマネジメントが実践できる環境を整えているわけですね。

問い2:評価・処遇の決定方法→答え

次に、スタッフの評価や処遇についてです。人を評価し、処遇を決めるというのを、同僚どうしでやるというのは、かなり抵抗感がありそうですよね。

そんなわけでお話を聞いてみたのですが・・・

アルトさん「オランダでは看護師の給与は資格のレベルと経験年数で国内一律なので、評価や人事考課はありません

なんと!ショッキングな答えでした。

少し補足すると、オランダでは労働組合が歴史的に政府や企業としっかりコミュニケーションをとって存在感が強く、業種ごとに処遇について明確に決まりがあり、看護師もその一つなのだそうです。

なのでどの訪問看護業者で働いても、看護師の給与は同じ。であれば、より働きがいのあるところで、となりやすいことも、ビュートゾルフに看護師が集まる理由なのでしょう。

ということで大変残念ながら、この部分は日本ではあまり参考にできなそうです。

組織において、評価や処遇決定はどうしても「評価者、マネジャー」が強く意識されてしまうところ。この部分をメンバーそれぞれが納得のいく形で現場で回していくことができたらかなり先進的だな・・・と期待していた視察メンバー一同、地味にショックを受けました。

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ショックを受ける視察メンバー

問い3:旧意思決定者の役割→答え

さて、気を取り直して、3つ目の疑問についてです。現場でセルフマネジメントができるようになったら、組織のマネジメントをする立場である経営者、旧意思決定者はどんな役割を担うようになるのでしょうか。やること、ないんじゃないでしょうか。

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アルトさん「業務遂行に関する管理や意思決定はしませんが、視察受け入れや講演などといった広報活動、看護師のなり手を増やす採用市場作り、ケア業界の活性化、ロビイングなど、一応いろいろしています」

まあ、さすがに「やることないんじゃないんでしょうか」というのは言い過ぎでしたね。すみません。

また、組織のセルフマネジメントについても全く関わらないわけではありません。

以前、社内SNSに、「この投稿はちょっと・・・」という際どい投稿が現場の看護師からアップされたことがあったそうです。

アルトさん「経営チームでは、『投稿を削除するか、しないか』を集まって議論・検討し、最終的に『投稿の削除はしない』という意思決定をしました。社内SNSによるスタッフのコミュニケーションが、経営者の検閲を受けるものではないというメッセージを示すためです」

業務遂行に関する意思決定はほとんどないものの、意思決定を通してセルフマネジメント文化をメンテナンスし、組織文化を維持していくのが、ビュートゾルフの経営者の役割ということが、じわりと伝わってくるエピソードでした。

休憩なしで約2時間質問攻めにされ、真顔で「さすがに疲れましたね・・・」と呟いて帰宅していったアルトさん。本当にありがとうございました。

視察での学びを糧にチャレンジしていくこと

これからこの視察での学びをもとに、フローレンスでは、組織にセルフマネジメントを取り入れていくため、以下のようなことをしていく予定です。

本部と現場の役割分担、意思決定のあり方の見直しを目指す

課題意識のところでも触れた、本部と現場の役割分担の問題。本部が決めて現場に下ろす、というやり方では、組織の成長に限界があります。

その役割分担を、意思決定という切り口から再考していきます。

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まずは本部での意思決定のあり方から。本部の中でも、どうしてもマネジャー、サブマネジャーに「意思決定する」という役割、期待が偏りがちな傾向がある現状を、ツールやルールの策定によって変えていければと思っています。

その上で、ICT化による情報共有と交流、意思決定や葛藤解決の研修など、コミュニケーションをスムーズにする施策も検討していく予定です。

さいごに

福祉や組織づくりの知見を深めるために行ってきた今回のオランダ視察。認知症高齢者の養護施設であるデ・ホーフウェイ、障害者支援のメイ、そして今回のビュートゾルフと、どの視察先でも共通していたのは、「自己決定を大事にする」という考え方でした。

認知症患者や障害者、小さな子どもなどは、「自分で決める」ことが傍目から見ると難しいように見えることもあるでしょう。でもそれは、周りがそう勝手に決めているだけなのかもしれません。

医師や介護者のいう通りにしよう、子どもは親の言うことを聞けばいい、あるいは、部下は上司が決めたことをやればいい・・・そんな制約を、「そんなことはない、自分のことは自分で決められる」と信じること、そしてそれを実現するために考え、動くこと。その大切さを、今回の視察を通して実感しました。

一連の視察レポートが、読んだ方の何かしらの気づきにつながれば幸いです。

フローレンスでは今後も、世界からさまざまな知見を得、事業運営に活かしながら、親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決するために、尽力していきます。

書いた人:橋本 吉央


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