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アクション最前線

2023/04/03

こども家庭庁発足!子どもたちの対話の時間「サークルタイム」フローレンス6年間の実践でわかってきたこと

    


4月1日、ついに発足した「こども家庭庁」。こどもの意見の尊重が任務のひとつとされ、「こどもの意見が年齢や発達段階に応じて積極的かつ適切にこども政策に反映されるよう取り組む」ことになっています。

発足に先立って3月下旬、まとめられた調査研究報告書では次のように記されています。

こどもが日常的に意見を言い合える機会や、大人から一人の人として尊重され、意見が聴かれその意見が尊重される機会を乳幼児の頃から学齢期・思春期に至るまで持つことができるよう、大人社会の意識を変え、こどもが自由に意見を表明しやすい環境と文化の醸成に社会全体で取り組むことが重要である。

そして、次のような記述も。

幼児など低年齢のこどもも例外ではなく、それぞれに思いや考えを持つ意見表明の主体である
(中略)
低年齢の子どもは、言葉によらずとも、泣き声や表情、態度等により気持ちを表現している。言語化されていない声や気持ちも認識され、尊重されるべきであり、意見を表明しやすい環境の整備やこどもの特性・状況に応じた支援を行う

(※出典「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する調査研究報告書 2023年3月 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所)

いま、国を挙げて始まろうとしている「子どもの思いや考えを聴き尊重する」ということ。フローレンスの保育園ではすでに6年前から取り組んできました

幼児が意見を表明するなんてできるの?
どんなふうに?
なぜ、子どもの声を聴くことが重要なの?

取り組みの現場から紐解きます。

ルールは「輪になって話す」ことだけ フローレンスの実践

いち早く取り組んできたのは、フローレンスの「みんなのみらいをつくる保育園」。「みんなの未来をつくることに自ら参加し、貢献し、そして楽しむ心を育む」ことを理念に掲げ、「シチズンシップ保育」を実践しています。そのひとつが「サークルタイム」と呼ぶ、子どもたちの対話の時間です。

東京・江東区にある「みんなのみらいをつくる保育園 東雲」では、開園した2017年当初から3〜5歳の子どもたちが毎日、サークルタイムを行ってきました。

ルールは「輪になって話す」ということだけ

保育士がファシリテーターを務めますが、何が話し合われるかは子どもたち次第。全員で集まることもあれば、年齢ごとに行うこともあります。結論が出ない日も、すぐ終わる日もあるということです。

また、4、5歳児を対象に週に一度、ピースフルスクール・プログラムという、オランダ発祥の自立と共生のプログラムも実践しています。パペットのやりとりなどを通して、自分や他者の感情を知り、対話の中から自分たちで解決する力を育もうというものです。

成川宏子園長の話

最初のころは、まずは座って話し合う時間があるんだよと子どもたちに知ってもらうところから始めます。なにかを決めるために意見するという経験をまだしたことのない子がほとんどなので、最初のうちはピンとこないものですが、繰り返すうちに『この場は意見していいんだ』と思えるようになっていきます。
いちばん大事にしているのはリラックスした雰囲気。大人が話しすぎないように気をつけています。

サークルタイムでは、絵本を読んで感想を話し合ったり、行事の内容を子どもたち自身が決めたりします。
去年の運動会のタイトルも子どもたちが考えました。
事前に意見募集をして、サークルタイムでキーワードを出し合った結果、決まったのは「秋の元気星祭り」。
「運動会」という言葉はどこにもありませんでしたが、それでも良し!
看板も子どもたちが手作りして、「秋の元気星祭り」と名付けた運動会が開かれました。

また、コロナ禍で恒例のお泊り保育ができなくなったとき、子どもたちが話し合って「夜までみんつく(「みんなのみらいをつくる保育園」の略称)」という行事が生まれました。

お泊りしたいけどコロナはこわい。だったら夜まで保育園にいるだけにしよう。子どもたちのアイデアで生まれた「夜までみんつく」では、公園に花火をしに行ったり、暗くなった園内を体験したり、プールにお湯を張ってお風呂にしたり、子どもたち自身が料理をしたりして過ごしたそうです。

成川宏子園長の話

子どもたちは大人が思いもつかないようなことを発想します。大人は無意識のうちに「こうまとまったらいいな」という方向に話を導いてしまいがちですが、そうならないように気をつけています。そして、子どもたちが出した結論を否定せず、どうすれば実現できるかを考えることが大切です。

対話を重ねて育まれるチカラとは

子どもたちの出した結論を実現するよう考える。
このことの大切さを、東京・渋谷区にある「みんなのみらいをつくる保育園 初台」の橋本英気園長も指摘します。

「みんなのみらいをつくる保育園 初台」のサークルタイムでは、去年、こんなことがテーマになりました。

「保育園に持ってくるリュックサックにキーホルダーをつけてもよいかどうか」

1歳から就学前までのお子さんをお預かりしている、この園では、1、2歳児が同じ部屋、3歳から5歳児が同じ部屋で過ごしています。
2歳までのクラスでは、誤って口に入れてしまう危険性があるためキーホルダーをつけるのをご遠慮いただいていますが、3歳以降については特に方針は決めていませんでした。

1歳からお預かりしている、ある園児が3歳になり、「キーホルダーを付けているお友だちがいる。なんで僕はつけちゃいけないの?」と保護者に尋ねたところから話は始まりました。保護者から相談を受け、担任の保育士がある日のサークルタイムで子どもたちに投げかけたのです。

サークルタイムでは多数決はナンセンス。保育士は「部屋の外で落としたら気づけるだろうか」「小さい子も通るけど大丈夫か」、さまざまな考え方を提示しますが、誘導はしません。子どもたちがとことん意見を出し合います。

この日のサークルタイムはなんと1時間以上にも及びました。

そしてまとまったのがこちらのルールです。

小さい子がリュックの近くを通ったときに興味を示してキーホルダーを引っ張ったりしないように「リュックをしめて、みえないようにする」ことや、小さい子が口に入れてしまわないように、食べ物をかたどったものなど「おいしそうなものは、つけない」ことになりました。ひらがなで書かれ、園内に掲示されています。

橋本英気園長の話

サークルタイムを重ねていくと、想像以上に質の高い対話ができていると感じます。子どもたちには『わがままではない主張』がちゃんとあるんです。
そして意見を聞くだけでなく、それが具現化されたという成功体験が、発信するチカラにつながっていくと思います。
自分で考える。言語化して相手に伝える。他者の意見を知る、違いを知る。そうした育ちは自然に醸成されるものではなく、意図的に取り組むことが必要ではないでしょうか。

フローレンスが掲げるシチズンシップ保育

こども家庭庁発足を前にまとめられた調査報告書でも次のように指摘しています。

言語化されない意思や気持ちを含めて意見を形成する過程のサポート(意見形成支援)を受け、必要に応じて周囲の大人に支えられながら意見を表明して取組に影響を与えるといった成功体験を積み重ねるなど、大人や社会がその重要性を認識しつつ支援することが求められる。

特に幼い子どもについては、こう記されています。

幼少期から気持ちを受け止められ、応答される体験の積み重ねは、その後の、学齢期、思春期、青年期における意見の形成の基盤にもなる。

フローレンスが掲げるシチズンシップ保育は、子どもたちひとりひとりの気持ちや意見を尊重し、子どもたちの「やってみたい」を応援する保育です。

6年前、認可保育園を立ち上げるにあたり、オランダや国内の先進事例を視察したうえで、子どもたち自身が未来を作っていく主体となるチカラを育むことを目指し、「シチズンシップ保育」と名付けました。

「みんなのみらい」は与えられた未来ではなく、自分たちで考え、決めていい。

保育園の生活の中で、自分の気持ちや他人の気持ちを知り、大切にすること。一つひとつ子どもたちと考えながら実現していくこと。私たちはその積み重ねが重要だと考えています

さらに幼い子どもたちも「やってみたら意外にできた」

これまで3歳以上を対象に行なってきたサークルタイムですが、0〜2歳児をお預かりする小規模保育園「おうち保育園」でも挑戦を始めています。

東京・台東区にある「おうち保育園新おかちまち」では、保育士の「サークルタイムをやってみたい!」という声を受け、去年夏頃から行っています。

「嬉しい」「悲しい」など気持ちを表すイラストが描かれたカードを選んだり、好きな色を出し合ったり。当初、保育士たちは、同じ場所に座っていることも難しいのでは、と想像していましたが、思ったよりも長い時間、みんなが座ってお友だちの話をじっと聞いている姿が見られます。
0歳や1歳の低月齢の子どもたちは直接参加はしませんが、お兄さんお姉さんのサークルタイムを近くで見ていたり、耳をそばだてたりしていることはよくあります。

繰り返すうちに、それまで恥ずかしがっていた子も手を挙げて、みんなの前で話せるように。頑張って発表する子どもに、他の子どもたちが「◯◯くんすごいね」と言う姿もあり、お友だちの変化をしっかり感じていることが伝わってくるそうです。

サークルタイムを続けてきた「みんなのみらいをつくる保育園 東雲」の成川園長も、「対話を繰り返すこと」が大切だと言います。
こんな出来事がありました。

4歳児がある日のサークルタイムで、ある意見に対して、「でも、ひとりの『いい』はみんなの『いい』じゃないかもしれないから」と発言したのです。

【成川園長の話】
自分のこの考えは友だちとは違っていても当たり前だと認識していて、園の参加者のひとりとして話し合いに加わっているからこその発言を嬉しく感じたものです。
意見を言える言えないにかかわらず、その場にいることが大切です。意見を持っていい、言っていい存在なんだという認識。さらに、意見がすりあわない、話し合いが難航する場面にぶち当たり、どう折り合いをつけていくか、自分の感情をどう整理するか、理屈抜きに体験していきます。
意見を言って良くて聞いてもらえる存在
誰かに尊重してもらった経験の多い子どもはきっと、他者を尊重できる人になります

「こどもまんなか社会」をみんなで目指そう!

子どもたちひとりひとりの気持ちや意見を尊重し、子どもたちの「やってみたい」を応援する、シチズンシップ保育。
手厚い保育体制をとっているからこそできる取り組みです。

例えば、「みんなのみらいをつくる保育園 東雲」でお預かりしている3〜5歳のお子さんは27人。配置基準どおりであれば保育士は1人ですが、パートスタッフ含め5〜7人で保育しています。

「みんなのみらいをつくる保育園 初台」も年齢ごとに担任の保育士1人ずつを配置し、園外での活動など時間帯によっては、3〜5歳の園児18人に対し4人を配置することもあります。

国全体で取り組みが始まる「子どもの意見を尊重する社会」の実現には、地域や事業者の財務状況に左右されることなく、すべての子どもが対象となるよう、体制整備と仕組みづくりが欠かせません。

フローレンスでは「サークルタイム」の実践を引き続き重ねるとともに、その役割や効果についても分析を行っていきたいと考えています。

子どもたちの“未来”と“幸福感”に寄与したい。
わたしたちは保育従事者、保護者の皆さん、そして子どもたちとともに「こどもまんなか社会」を体現していきます。

フローレンスは去年公開された映画『こどもかいぎ』(こどもたちが「かいぎ」をする保育園を1年間に渡って撮影したドキュメンタリー)に協賛・後援し、映画を見て、自分たちでも「こどもかいぎ」をやってみたい!と思った方に向け、実践のためのガイドブック『こどもかいぎ』のトリセツの監修に携わりました。ご興味ある方はぜひ、こちらもご覧ください!




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