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2023/11/09

【フローレンスと障害児保育・現場編】病棟看護師から地域の看護師になって知った こどもたちと日々を「重ねる」よろこび

   


医療的ケア児のご家庭に看護師が訪問し、看護も発達支援も担う「ナンシー」

フローレンスでは、2014年に開園した日本初の障害児保育園(※)「障害児保育園ヘレン」から始まり9年間、障害児・医療的ケア児とそのご家族への支援を続けてきました(9年の歩みとこれからについては、ぜひこちらの連載記事前編後編をお読みください!)

※障害児を専門に長時間お預かりするという形態での保育施設として日本初

フローレンスの障害児保育・家庭支援には3つの活動があります。それが「障害児保育園ヘレン」、「障害児訪問保育アニー」、「医療的ケアシッター ナンシー」(以下「ナンシー」)です。

今回は2019年に活動をスタートした、「ナンシー」の看護師二人にインタビュー。元々は病院の小児科病棟で働く看護師だった二人がなぜ「ナンシー」にやってきて、今はどんな願いを叶えているのか?地域で働く看護師が感じる醍醐味とは?そんな活動への思いを、「ナンシー」立ち上げ期に同期で入社し、活動の礎を築いた看護師・池田美穂と岡田沙苗が語ります。

【動画】看護師による医療的ケア児のためのシッター「ナンシー」丨「やってみたい」を一緒に叶える。【認定NPO法人フローレンス】

★医療的ケアシッター ナンシー

障害児・医療的ケア児家庭に、看護師が訪問し、医療的ケアと遊びや発達支援を行う事業。一般の訪問看護に比べ、訪問時間が3時間程度と長いことが特長。自宅への訪問に加え、特別支援学校の通学支援なども行う。

★障害児保育園ヘレン

障害児を専門に長時間保育し、保護者の就労支援も行う、日本初の障害児保育園。2014年に荻窪に開園し、現在は経堂、東雲、中村橋を加えた4園を運営中。

★障害児訪問保育アニー

保育スタッフがご自宅に訪問して1日最長8時間の1対1の保育を実施。保育中は研修を受けた保育スタッフが医療的ケアも担当。看護師による定期的な訪問も並行して行い、障害児の健康管理を行う。

池田美穂(いけだ・みほ)

小学生の頃から「小児科の看護師になりたい」ではなく「なるんだ」と心に決め、夢を叶えて大学病院の小児病棟に勤務。その経験を通して「もっとお子さん一人一人と関わりたい」と願って、2020年6月にフローレンスへ。現在「ナンシー」の看護師の中でナースリーダーを務める。

岡田沙苗(おかだ・さなえ)

地方の病院でNICU、小児病棟、重症心身障害児病棟などの看護師を歴任。病棟での退院支援の経験から、家で過ごすこどもたち・ご家庭の支援がしたいと願い、2020年6月にフローレンスへ。池田と共に「ナンシー」のチーム構築に尽力する。

現場を「護るひと」からフローレンスでは「創るひと」になった

ーーお二人とも、もともとは小児病棟で働く看護師だったんですよね。どんなきっかけで「ナンシー」に移ってきたんですか?

池田:病棟の看護師をしていると、1日に受け持つ患者さんの数も多く、ケアや記録などやることが次々に発生して、1日があっという間でした。頻繁に入退院するお子さんが多い環境なので、お子さん一人一人とじっくり関わったり、成長を見守ったりというのは難しかったんです。そんなとき、「フローレンスのヘレンなら保育園だからお子さんと遊んだり、じっくり接することができるんじゃないか?」と思ったのがきっかけでした。そこで当時立ち上げたばかりの「ナンシー」に飛び込みました。

岡田:私はかつて病棟で、ターミナル期のお子さんの退院支援をする機会がありました。ご家族も不安を抱えながらの退院でしたが、お家でご家族と一緒に過ごすことができ、よい時間にできたというお話を聞いて、今度は地域でこどもたち・ご家庭を支える仕事ができたらなと思いました。また毎日病室の天井を見ているしかないお子さんと接してきたので、お子さんにもご家族にも、もっとマンツーマンの支援ができたらって思っていたんです。ナンシーは1回の訪問で2~3時間と、比較的長時間訪問できることも魅力でした。1時間程度の短時間訪問だと、ご家族にじゅうぶん休んでいただくことも難しいかもしれないし、お子さんとゆっくり遊ぶことも難しいと思っていました。

ーー病院という大きな組織の中で看護をするのと比べて、突然地域社会に1人で飛び込んでいくという不安はなかったですか?

池田:私は2020年6月に岡田さんと一緒に入社しましたが、「ナンシー」のサービス開始が2019年9月だったので、まだ立ち上げ期という感じでした。看護師は10人しかいなくて、体制や決まりをつくることより、「とにかく訪問する」ということで精一杯の毎日でした。

岡田:本当にそういう感じでしたね!

池田:分からないことは、リーダーに聞いて解決するのが基本。でもお子さんの命を預かる仕事なので、ノウハウが属人化した状態では危険だという声が上がりました。そこで「業務ごとに係をつくって分担するチーム体制をつくりませんか?」と提案しました。

岡田:2020年ですから、コロナ等感染症対応でとても苦労していたころでした。病院に所属していれば、衛生基準ひとつとっても、各専門領域の委員会から指示が下りてきますが、「ナンシー」の衛生基準は池田さんが自らリーダーになって構築してくれたものです。これは大変な作業だっただろうと……。

池田:そうでしたね(笑)。そんなふうにすべての業務を、みんなで話し合いながら積み上げてきました。例えば今は、週1回の訪問のお子さんだと、3人くらいの看護師で担当するようにしています。担当看護師が1人しかいないという状態はつくりません。違う人の目でいろいろな角度から見て、お子さんの状態を把握するためですね。そんな体制もこの3年の間、都度チームで話し合ってつくってきたんです。

訪問は1人。でもそれを支えるのは綿密なチームプレイ

ーー「業務に係をつくって分担したい」という提案はその後どうなったんですか?

池田:ばっちり実現しました!係は5つあります。療育係、衛生・感染係、絵本係、研修係、書類係。療育係は「わくわくさん」、衛生・感染係は「きれいきれい」って呼んだりしています(笑)。

岡田:わくわくさんの大事な仕事は、お子さんたちを楽しませる企画です。「ナンシー」の看護師はほとんど病院出身の人ばかりなので、医療的知識があっても、お子さんとの「遊び」には慣れていないんです。なので制作グッズを企画したり、遊びや関わり方を考案したりしています。夏休みと冬休みにお子さん同士のオンライン交流会をやるのも大事なイベントなんです。絵本係も似ていて、訪問時に持っていく絵本を図書館で用意・管理しています。研修は心肺蘇生法など、緊急対応の研修を行っています。

池田:私はきれいきれい担当です。訪問時にはこれくらいの装備が必要とか、そんな基準づくりから始めました。

岡田:書類係は大変です!ナンシーは様々な制度を使って訪問していますが、安全に訪問するために必要な医師からの指示書を取り寄せたり、制度に合わせた計画書や報告書の下準備をしたりします。今ナンシーで見ているお子さんは約70名なんですが、70名分、書類も必要なんですよね。訪問って1人で行って1人で帰ってくるイメージだと思いますけど、わたしたちはチームじゃないと成り立ちません!

ーー「ナンシー」の活動ならではのよろこびはどんなところにありますか?

池田:最初の頃は、「お子さんと遊ぶ人」という存在で、ご家族から医療的な内容について相談していただく機会が少なかったように思います。

岡田:でも最近はご家庭から医療面でもすごく信頼していただいていることを感じますね。お子さんの様子を長時間みているからこそ、少しの体調の変化もご家族と共有することができるのは、わたしたちの強みかなと感じています。

ーーナンシーチームが時間をかけて獲得した信頼なのでしょうね。

池田:そうだとしたら嬉しいです!やっぱり個人がゼロから信頼を獲得していくのは時間がかかります。コツコツ続けてきたことが、こういう形で実って良かったなと心底思います。

岡田:あとよろこびで言うと、わたしたちは入社して3年経ったので、当初から訪問しているお子さんだと、3年間ずっと見守ることができているんです。それは病棟ではまずあり得ない関係性で、成長していく過程を見られるのは一番のよろこびです。特に「ナンシー」の活動をしてから気づいたのは、今まで病院にいたときは、「お子さん一人一人が出しているサインに全然気づけていなかった」ことでした。

池田:それ、私もすごく共感します……。

岡田:医療的ケアが必要なお子さんの中には、一見「表情や意思表示が少ないな」と見えるお子さんもいるんですけど、一対一で関わり合っていることで、自然とサインや気持ちをキャッチできることがあるんですね。それをキャッチして遊びやケアにつなげられる看護のよろこびって、フローレンスに来て初めて知りました。

ナンシーの支援をもっと広げるためにつくった「ナンシーマニュアル」

ーー「ナンシー」では、医療的ケア児を育てるご家庭の「お出かけ支援」にも取り組んでいますよね。

池田:はい。いくつかの寄付企業さんのご支援のおかげです。医療的ケア児家庭では、「ちょっとそこまで」の外出にさまざまなハードルが存在します。家族そろってのお出かけを通して、ご家族全員の思い出や体験をつくっていただきたいという思いで、看護師が支援しながらテーマパークなどに遠足にお連れする遠足プロジェクトが立ち上がりました。

遠足プロジェクトの一コマ。八景島シーパラダイスに行きました。

移動動線、電源確保、お子さんのケア……。移動中も看護師たちが大活躍します。

ーースタッフからの発案で普段の活動でも、遠足プロジェクトでも実施のマニュアルまでつくっていると聞きました。

池田:はい。寄付企業のひとつであるチューリッヒさんから、ぜひ今後も遠足プロジェクトを続けていきたいとお申し出いただいて、プロジェクト継続のためにつくり始めたんです。プロジェクトに限らず、普段の訪問においても業務を属人化させないためのマニュアルづくりは大切な仕事です。

岡田:平等性の担保のためにも必要です。お話したことや対応の内容がスタッフやご家庭によって異なると、ナンシー全体の信用に関わってきます。今訪問しているご家族は本当にナンシーを信頼してくださっているので、例えばヘルプで訪問するスタッフであっても、全員が同じような支援ができるように、マニュアルの存在があります。

ーーフローレンスの障害局はこれまで蓄積してきた障害児保育・家庭支援のノウハウを、もっと多くの事業者や自治体に広げていこうとしていますよね。このマニュアルも多くの人に活用されてほしいです。

池田:入社したときに比べて、地域の事業者さんでも「ナンシー」を知ってくれていることを実感する機会が増えました。別の事業者さんが記事を読んでくれて、通園や登校の付き添いやってましたねって声をかけてもらえるようになって。

岡田:私は地方出身なので、医療的ケア児家庭が受けられる支援制度の地域格差をずっと感じてきました。だから本来なら、全国にフローレンスのノウハウが広がるのが理想です!すべてのご家庭で親御さんが心身疲弊することがないようにと心から思います。心身の疲弊は支援者が少ないとどうしても起こりやすくなりますから。

横浜市と連携して行う通学支援の様子。移動中も絶え間なくケアを続けます。

ーー「ナンシー」の活動を通してどんな未来を叶えたいですか?

岡田:今「ナンシー」ではお出かけとか通園・通学の付き添いもたくさん対応させてもらっていますが、医療的ケア児が保育園とか学校に普通に通えることって、健常のお子さんにとっても、プラスになることだと考えています。大人になったときに、障害や医療的ケアのある人に「あの子と一緒だ」と思って自然に関われる環境をつくっていきたいです。

池田:さっき地域格差の話がありましたが、受けられる支援が少ない地域にも、わたしたちのような事業者が広がるといいなといつも感じています。医療的ケア児を育てているご家庭は、毎日のお出かけも、通園も通学も毎度大きなハードルを感じていらっしゃいます。そのひとつひとつのハードルを少しでも低くしたい。全国どこでも同じ支援が受けられるようになって、障害児や医療的ケア児が、どんな場にも「いてあたりまえ」にどんどんなっていくといい。まだまだわたしたちが挑戦したいことはたくさんあります!


思い切って地域に飛び込んだことで、仲間と共に看護するというよろこびと、お子さんやご家族にマンツーマンで継続的な支援ができるよろこび、2つのよろこびを得たという二人。

「ナンシー」ではこれからも、障害児とそのご家庭の「やってみたい」を一緒に叶え、障害児家庭の新しいあたりまえをつくっていきたいと思います。そのためには新しい挑戦も生まれるかもしれません。「ナンシー」では、この二人の看護師のように、「現場を創る看護師」として輝きたい看護スタッフをお待ちしています!



書いた人:酒井有里


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