2017/12/18
社会の底を支えるソーシャルセクターは「安心して暮らせる日本」への一筋の光明。ミステリー作家大倉崇裕氏が寄付をする理由
障害児保育事業を中心にフローレンスを「寄付」というアクションで支援して下さっているミステリー作家の大倉崇裕さん。
11月某日、フローレンスの運営する複合型保育施設「おやこ基地シブヤ」をご案内した際、社会課題を解決するのに必要な力、寄付を通じてフローレンスのようなソーシャルセクターの人々に託す思いをお伺いしました。
前編【ミステリー作家大倉崇裕氏が障害児保育に寄付をした理由。「子育て中の全ての人に頼れる場所はあるべき」】に引き続き後編をお届けします!
大倉崇裕氏プロフィール
1968年生まれ。京都府出身。学習院大学法学部卒業。1997年「三人目の幽霊」で第4回創元推理短編賞佳作を受賞。1998年「ツール&ストール」で第20回小説推理新人賞を受賞。精力的な執筆を続け、『福家警部補の挨拶』は2009年、2014年にテレビドラマ化されるなど人気を博す。また2017年4月公開の映画『名探偵コナン から紅の恋歌』の脚本を担当し、大ヒットとなる。『小鳥を愛した容疑者』『蜂に魅かれた容疑者』『ペンギンを愛した容疑者』など「警視庁いきもの係」シリーズが2017年夏フジテレビにてドラマ化された。
<聞き手:フローレンス広報>
子どもをみんなで育てられることが、課題解決への近道
ーー日本では、寄付することに慣れてないというか。遠巻きでみる傾向が、まだまだ多いと思うんです。そんな中、大倉さんが寄付というアクションを起こされたのはどういう思いからだったのでしょうか?
たとえば与党がどこにかわろうが、経済情勢がどうかわろうが、影響されずに問題の解決にうごける団体に、寄付をするのがいちばん効率的だって気づいたんです。
寄付先がそういう強い組織であることが前提ですけど。いま一番自分が課題だなと思う社会問題にリーチしているところに、自分が動けないから託したいって気持ちでいて……。
ーーどんな状況にも左右されず課題解決ファーストでうごく強い組織力、がソーシャルセクターに求められているんですね。ちなみに、いま一番の課題だとお感じのことは何ですか?
一番しわよせがきてるのが女性や子どもだと感じています。そのなかでも一番厳しい状況にあるのが障害児、とくに医療的ケア児ではないか、と思いました。医療が発達したからこそ、増えた課題でもあるし。
職業としていろんな社会のニュースに触れてる中で、自分ごととして課題を感じられた、という意味合いではあるんですが。
ーーいちばん弱い立場、いちばん知られてない親子がいることすら一般的には認識されていません。こうやって気づいていただけだけでも、とても心強いことです。
そもそもでいうと、少子化っていうのをなんとかしないといけないと個人的に考えてました。なんで国が取り組まないのかわからないんですけど。子どもをみんなで育てられれば女性も仕事ができるし、女性の差別なども解消してくるかなと。
だから、支援するとすれば子育ての領域だなとは思ってました。
ーー雇用の問題や、女性の地位の問題の解決は、少子化対策の根幹のように思えますが、どういうわけかいつも後回しになっていますよね。
そうですね。子どもが育てられるって、親が安定した収入源をもっていることだから。男女どっちが働くか、とかは別問題。何があっても安心して、育てられる安心感。
今は、転落してしまったときの安心がない、そこがうまくいってない。そりゃ、貯金しちゃいますよね。実際ぼくも、母の介護していたときにお金で預け先を確保できたから救われましたし。
ーー子どもを産むのもお金が十分ある前提ですよね。何かあったら貯金がないと大変だから貯めようってなると、経済が回らないですよね。普通に働いてるのに、お金がないからもう一人産めない社会って……淋しい。
そりゃ子ども減りますよね。国のやってることがずれてるイメージがあって、個人的には批判を感じます。
一方で、そんなこと言っても今まさに困っている人がいることも事実。せめて「助けて」がちゃんと聞こえる社会だったら。その受け皿があったら、もっと不安にならずに社会が豊かになるんじゃないかって思います。
NPOなどのソーシャルセクターの皆さんには、その役割を担ってもらってると思ってます。
Twitterのフォロワーがいなくなった経験。そして、伝えるために必要な力
ーー前段でおっしゃっていた政治や経済などの情勢に影響されない強い組織でいるためには、どんな力が必要でしょうか?
伝える力、というのは大事だって思います。ぼくにこうやって届いた事実とか。フローレンス のロビイング活動で、「医療的ケア児」が法律に載る言葉になったとかは、まさにそうした力の成果です。
ーー私たちも自社メディアやSNSで手弁当的に一生懸命発信しているんですが、なかなか思うように広がっていきません。作家さん視点でのアドバイスをお願いします!
わかります。実は、ぼく失敗してるんですよ。
ーーあああー。そういうのは求めていなかったよ、と。
そう(笑)で、まずったなって。本当は、別に意見を承認してって話じゃなくて、こういう社会問題があるってのを伝えたかっただけだったから。これじゃ逆に伝わらなくなるって気づきました。
ーー一方的な主張じゃダメということですよね。身につまされます。なにか、次なる作戦は立てたんですか?
はい。作家魂といいますか、これは人に読ませるためのストーリー構成の勉強だと思いまして。ひとつのニュースを言いっぱなしで伝えるんじゃなくて。たとえば、
①このニュースがありました
②そのニュースにはTwitterでこんな反応でした
③その後こうなりました
みたいにストーリーを作っていく。さらにそのニュースへの反応をウォッチして、レポートとすると興味をもって読んでもらえます。
ーーなるほどなるほど……時系列で反応要素をあつめて、事実でストーリー構成をするんですね。
うん。そういう意味では、ぼくが障害児保育園ヘレンを知るきっかけになったTBS報道特集の医療的ケア児の話はストーリー構成がよくできてて、ぐいぐい引き込まれた。あの時の、なんでっ?!日本なのにっていう衝撃。あれだと思います。
ーー衝撃の共有、ですね。ストーリー構成力と川畑ディレクターの熱意のおかげで一気に「医療的ケア児」という言葉を知ってもらえるきっかけになりました。
「保育園落ちた日本死ね」の話もそうだけど、ぽーんっとした衝撃が知られて、正しい情報が、転がり始めると世論がかわる可能性が高い気がします。ただかわいそうだけという情報では、ダメで。
ぼくのは勝手な主張の延長だけど(笑)フローレンスさんの活動は知られなきゃいけないから。頑張って皆さんに伝えてほしいです。
社会の隙間を埋める事業を支援したい。それが、負の連鎖をとめるから
ーー作家さんならでは視点ありがとうございます。寄付するに値する団体として知ってもらえるように、課題の提示から成果の報告までしっかりストーリーを広報していきます。
フローレンスさんがやってるような大事な事業が着実にやっていける社会じゃないとね。政治に頼ることも大事だけど、それがうまくいかなくても子どもたちには関係ないから。
政治とか経済の社会的変動に関係なくやっていける社会事業団体、ソーシャルビジネスでのプレイヤーがもっと必要だと思っています。
−−ありがとうございます。そう言っていただけると心強いです。
フローレンスさんの医療的ケア児への支援なんて、社会の隙間を埋めてる話だと思いますし。それがみんなの安心につながる。
子どもの介護で親が働けない問題というのは喫緊(きっきん)です。働けないとお金が入ってこなくなるわけで、まずはここをちゃんとケアする受け皿があるべきなんです。
ーー実際、障害児を育てるのに医療費がすごくかかるのに仕事ができないと、二重苦です。すごく難しい課題を夫婦で抱えるので、離婚にもつながりやすいと言われています。それは、ひとり親の貧困問題などにもつながっていってしまいます。
負の連鎖になる社会のしくみになっていますよね。医療的ケア児の話でいえば、障害を治すとかの治療の話は、別の問題だと思います。まずは、ご両親が安心して働ける環境、そこを最初に何とかすべきではないでしょうか。それが、人々の安心につながると個人的には思ってます。
ビジョン・ミッションをしっかりもっているNPOは、率先してそういう社会の隙間を埋める事業をしてくれていると感じていて、政治とか経済がどうあってもやってくれています。そのエビデンスのあるNPOに、お金とか労力を出すしかないって思ってます。
−−身が引き締まります。最後に、大倉さんがこれから目指したい未来、社会への想いはありますか?
子どもを安心して育てられる社会が土台。そこがうまくいけば、いま課題になってることが、大抵うまくいくって思っています。
社会のセーフティネットとなる事業、ヘレンやアニーのような障害児向けの保育とかは大事です。光があたりにくい底をしっかり支えられる社会が安心につながると思っているので。そういう社会であってほしいです。
ーーどんな境遇にあっても、どんな選択をしても安心して暮らせる、笑顔で子育てできる社会ってすごく重要ですね。誰も孤立しない、とかも大切。
親が安心すれば、虐待も少なくなっていくと思っていて。
ひとり親でも孤独にならず安心して育てられる社会だったら、非正規にならずに安定した収入が得られる国なら、シングルマザーであることでも問題はなくなる。そうしたら、変な旦那に我慢して過ごすなんてことはなくなるわけで、そのほうが幸せなんじゃないかと。
安心できる社会が現実になるために、必要なことは
ーー安心できる社会に向かうためには、どんな力が必要でしょうか?
ちょっとずれるかもしれないけど。今、痴漢冤罪の話を書いています。作家ですから、痴漢をする側、被害者側、冤罪側、冤罪を作った側、多方向からの声が書かれた文献を読みます。クラクラしながら読みました。なんとなく、痴漢ありきで話が進んでいることに憤りを感じます。「冤罪って言われたらどうしよう」って被害者が声をあげれないとか。
根本的に痴漢をどうにかしないとって話でしかないのに、冤罪がどうのの話に集中してるケースなどもあって。そもそも痴漢がいなければ冤罪発生しないし。痴漢をなくす話をしないといけないのに、って思うわけです。
ーー「冤罪どうする?」「痴漢されたら我慢するしかないの?」じゃなくて、そもそも痴漢なくそうよ、ですよね。
そう、どう我慢するかとかいらない。根本をつぶさないと。
ーー原因をつぶさないままでいると、不安が渦巻きつづけて、病気や犯罪がふえてく負のスパイラルに陥る社会になりますね。なるほど。
仕事がら事象をよく読んで、それがなぜ起きたかは、知識として知っておかないといけないんです。本の中ではわりとハッピーに解決しちゃうけど、現実はそうは行かないのもよくわかっている。だから、原因をしっかりつかんで解決できる社会が、安定した社会を生むと思ってます。
そういう意味で、フローレンスさんは、原因を掴んで課題を解決する力があると思ったというのも、寄付先として選んだ理由のひとつですね。
--ありがとうございます。目の前の課題と、それを引き起こしている元凶を両方見て、どちらにもしっかりアプローチしていきます!
まあ、ぼくは脳内ではもうそろそろ100人殺すかな、って感じですからね……。すくなくとも50人は確実に……だから、たまには心の潤うことを話をしたり、いいことしないとね(笑)
子育てしているから余計に息子たち、その次の世代の子どもたちに、今よりいい社会を生きてほしいって思います。
寄付がきっかけで、こういう話もできたし。念願のヘレンを見学できてよかったです。
ーーご支援に込められた期待やご意思を伺い、大倉さんのような熱い仲間と共に社会を変えることができるフローレンスは恵まれているなと改めて思いました。
大倉先生、今日は本当にありがとうございました。
大倉氏の寄付のきっかけは「障害児の介護で離職せざるをえない母親が大勢いる」ことに対する疑問と憤りでした。
もしあなたにも「こんな社会になったらいいのに!」という想いがあれば、まずはワンアクションを起こしてみませんか。そして「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」というミッションに参加して下さるなら、フローレンスにその想いをどうぞ託して下さい。
必ず、皆さんと変化を起こしていきたいと思います。
書いた人:柳瀬綾子
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