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インタビュー

2017/12/17

ミステリー作家大倉崇裕氏が障害児保育に寄付をした理由。「子育て中の全ての人に頼れる場所はあるべき」

     


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10月のとある日、私たちフローレンス寄付担当スタッフはご寄付とともに送られてきた一通のメールに、目を丸くしました。

はじめてメールをだします、大倉崇裕と申します。

昨年だったかと思いますが、医療行為が必要な子供を持った親御さんに密着したドキュメントを見ました。その中で障害児保育園ヘレンの活動を知りまして、感銘を受けました。私には三歳の息子がおります。おかげさまで健康で元気に育っておりますが、それでも育児と仕事の両立には共稼ぎである妻も含め、疲労困憊しています。そんな中で、ふと思いだされるのが、先のドキュメントでして、ご両親のご苦労などを思うと何か手助けができればなと思っておりました。

私は恥ずかしながら作家をしております。その内からわずかですが、寄付させていただくことで、支援とさせていただければと考えています。本が出るのは年に二回か三回。次はいつになるか判りませんが、障害児保育園ヘレンを中心に、フローレンスの活動は見守っていきたいと思っています。

こ・・・これは。

まさか、あの大人気ミステリー作家「大倉崇裕」氏からのメール?!

折しも、大倉氏の「警視庁総務部動植物管理係シリーズ」を原作とするフジテレビ「警視庁いきもの係」が好評放送中。毎週家族でドラマを楽しんでいるというスタッフもいれば、大倉氏の書き下ろし脚本による映画「名探偵コナンから紅の恋歌」を観たスタッフもいれば、大倉先生の作品は全て読破しているというスタッフまで、一同がどよめいたのです。

何度かメールをやりとりさせていただく中で、ぜひ一度保育現場をご見学にいらっしゃいませんかとお声がけし、11月某日、ミステリー作家の大倉崇裕さんが渋谷区初台にフローレンスが開設した複合型保育施設「おやこ基地シブヤ」を訪ねて下さいました。

おやこ基地シブヤは、医療法人社団ペルルによる小児科「マーガレットこどもクリニック」、渋谷区初となる病児保育施設「病児保育室フローレンス」、渋谷区認可保育園「みんなのみらいをつくる保育園 初台」、そして大倉さんが今回寄付支援された「障害児保育園ヘレン 初台」がひとつの建物に揃う、日本でもあまり例を見ないインクルーシブ型の保育施設です。

気さくな大倉さんのお人柄に甘え、寄付のきっかけや、フローレンスなどのソーシャルセクターに託す思い、はたまた興味深いプライベートについてなど、ざっくばらんにお伺いさせていただきました。

大倉崇裕氏プロフィール

1968年生まれ。京都府出身。学習院大学法学部卒業。1997年「三人目の幽霊」で第4回創元推理短編賞佳作を受賞。1998年「ツール&ストール」で第20回小説推理新人賞を受賞。精力的な執筆を続け、『福家警部補の挨拶』は2009年、2014年にテレビドラマ化されるなど人気を博す。また2017年4月公開の映画『名探偵コナン から紅の恋歌』の脚本を担当し、大ヒットとなる。『小鳥を愛した容疑者』『蜂に魅かれた容疑者』『ペンギンを愛した容疑者』など「警視庁いきもの係」シリーズが2017年夏フジテレビにてドラマ化された。

<聞き手:フローレンス広報>


営業マンから作家へ転身、ミステリーで身を立てるまで

ーー本日は、「おやこ基地シブヤ」にお越しいただきありがとうございます。また、「障害児保育園ヘレン」へのご寄付も本当にありがとうございました。今回、有名ミステリー作家さんにインタビューのご快諾をいただけて、あわてふためきました。依頼しておきながらですが(笑)

いやいや、そんな。大御所だったり、面だししてない作家ならこういうインタビューも話題になって、もっとお役に立てるんですけど。たとえば、宮部さんとか東野さんとか……。ぼく、面だししてるし、そんなに有名じゃないし……。

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ーー( なんて謙虚な……!)今年、2017年夏クールのドラマ「警視庁いきもの係」かなり話題でしたし。子どもと安心して見られるミステリーものって少ないから、子育て世代の社員に大人気でしたよ。ダンスも流行りましたよね。

いきもの係のドラマは、福家警部補のドラマも手がけてくれた貸川聡子さんがプロデューサーをしてくれて。全部まかせられる人で、とても信頼しています。

何も聞かされてないはじめの段階で、彼女に「日曜日夜、子どもが見られるものをつくります。だから、原作に少し手を入れてもいいですか?」って言われて。

でも、いいですよって言ったんです。ぼく、福家のときも犯人変えてもいいって言ったことがあるぐらいで(笑)

ーードラマでは犯人が変わるなんて、斬新……!そんな大倉さんといえば作家になられた経歴も異色ですよね。大手酒造メーカーの営業マンをされていたとか。そして、その後、編集プロダクションに転職された。

営業をやっていたんですけど、毎年売上の目標数値ってあがってくでしょ? あ、これ頑張って売り上げあげ続けると、翌年キツくなるから、今年怒られても適当にして下げちゃえとか悪知恵も働いたりして。

ーーある意味かしこい!(笑)……でも気持ちが折れるというか、働くのがきつくなってきますよね。

はい、で、転職考えて。書くことには興味あったから、その方向で探しました。でも編集プロダクションって経験者募集ばかりで。

唯一、未経験OKだったのが、その転職先。そこが警察学校のテキストをつくっている編集プロダクションだったんですよ。警察とのそういう接点から、社会でおきる犯罪や問題に目が向くし、トリックのネタも入ってくるしで一石何鳥でした。

ーーそれは、運命的ですね。では、その編集プロダクションで働きながら小説の応募をされて、作家への道がひらけた、と。

しばらく兼業でしたけど。どうにか、作家だけで食えるようにはなりました。

「医療的ケア児」の問題を知ったきっかけは、TBS「報道特集」

ーーもしかしたら、ミステリー作家という、社会情勢をよく見られている方だからこそ、医療的ケア児の課題にとりくむ障害児保育園ヘレンの取り組みに目を向けていただけたのではないか、と思ったのですがどうでしょうか?

預かり先がなく、待機児童にすらなれない医療的ケアを必要とする子ども「医療的ケア児」が1万7千人もいる事実は、まだまだ知られていないので。

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そうですね。作家業、特にミステリーをやっているものとして、社会で起きていることや社会問題には常にアンテナをはっています。実際、家ではずっと報道番組を流しっぱなしにしてて。

全部にピンとくるわけじゃないんですけど、障害児保育園ヘレンを知った医療的ケア児の報道には釘付けになった。放送の中には、今の野田聖子大臣(※本インタビュー当時)が、子どものために学校に胃ろうのチューブにお昼ごはんの注入をしに来るシーンがあって。え? まって? 日本の大臣だよ? って。

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※画像:野田聖子氏のFacebookより

ーー2016年9月17日放送のTBS「報道特集」ですね。あの報道は、「医療的ケア児を育て働くこと」をテーマにディレクターの川畑さんが本当に力を入れて取材をしてくださって、反響がとても大きかった企画です。

胃ろうや酸素吸入などの医療的ケアを日常的に必要とする子ども「医療的ケア児」を預かる保育園がないことをあの報道で知った方が多かったです。

本当にショッキングでしたね。日本の大臣クラスですら、どうにもできない問題なのか、って。明らかに手を差しのべるべき存在であるのに。ここ日本だぞ?と。

ーー「医療的ケア児」という言葉も数年前はありませんでした。医療的ケア児の課題は、フローレンスも非常に力を入れているロビイング活動のひとつです。

野田聖子さんのお子さんは障害児保育園ヘレンを利用していたことがあるんです。それがきっかけで、2015年2月、障害児保育園ヘレンを議員さんが視察して下さり、医療的ケア児のための制度設計を目的とした超党派会議「永田町子ども未来会議」が発足しました。

フローレンスもこの会議体に加わり動き出してから、1年と少し経った2016年5月、障害者総合支援法の改正条文に、日本の法律で初めて「医療的ケア児の支援」が記載されたんです。全ての基礎自治体は医療的ケア児支援の努力義務を負うこと、にやっとなったんです。ここは、声を大にして言いたいです(笑)

言いましょう(笑)子どもの状態に呼称がついて認知されることで、やっと国に助けが必要な存在としてみとめられたって話ですよね。しかし、ロビイングできて、ちゃんと法改正や、必要な施設の運営実地まで行動できる団体ってなかなかない。だから、寄付先として信頼できるなって思いましたよ。

それに、障害児保育問題へのリーチは、ほんとうに必要なことだって身にしみて感じていて……。

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ーー社会課題に対して情報収集力のある作家さんに、フローレンスの地道な活動を認めてもらえたのは、うれしいかぎりです。

介護をとおして身にしみた孤立の怖さ。預ける場所があるだけで、劇的に変わる

ーー特に、障害児保育への支援に関心をもっていただいたのには、どういう理由がありますか?

作家の職業病か、底辺で光をあてるべきところを無意識に探しているのがベースにはあると思います。それと今、3歳の息子の子育て中ですが、息子がまだ小さい時に何度か熱痙攣で入院したことがありました。夜中に国立成育医療研究センター病院に駆け込むこともしょっちゅう。

成育医療センターはご存知の通り、日本で最大規模の小児・周産期・母性医療を専門とする病院。そこでたまたま障害の重いお子さんを持つご家族たちの大変さを目にすることがあって、リアルに状況が想像できたのはあります。

だけど、ぼくの場合、実はそこだけじゃなくて。結婚前に母親の介護を経験したことが大きいかもしれません。

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ーーご結婚前ということはお1人で介護を担った経験がおありということですか……。

作家業には専念していましたが、まだ30代後半でした。母は当時69歳でしたが、最終的に寝たきりになってしまって。脳の病気で抗生硬膜炎っていって、脳の炎症が起きた場所で症状が変わる病気。治療法もないし、原因もわからないっていわれて。薬の副作用も強くて……。どうしていいやら。

ーー周りに経験者がいないパターンですから、ひとりで抱えてしまったのでは?

そう、完全にたったひとりで、問題を抱えてしまった。正直、追い詰められました。ただ、福祉施設に預けることがきまってから、環境は改善したんです。自分もだし、母もちゃんと薬の飲み時間などを健康管理をされることで、良くなって。

これって、ぼくがたまたま作家だったから、仕事を辞めないで続けられたものの、サラリーマンだったら難しかったと思いました。報道特集の医ケア児の報道をみて、それって親の介護であるのか障害児の育児であるのか、それだけの違いだなって思ったのが大きいです。

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ーーおっしゃる通り、医療的ケア児の親御さんは、夜も2時間以上まとまって寝ることがないと言われています。離職云々の悩みのまえに、体力的に限界がくる。そして、多くの方が、子育てじゃなくて介護みたいだっておっしゃる状況なんです。

わかります。きっと0歳をずっと育ててる感覚ですよね。とくに、お子さんの場合はこれからが長い。親の介護より大変で、より重いだろうなと思います。

追いつめられた時期があった身としては、預けられる場所があることがどれだけ重要かが、身にしみてわかりますから。介護離職なんて、もってのほかって思うし。だから、障害児保育園ヘレンのような場所は必要だって思うし、寄付するに値すると感じました

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ーーありがとうございます。障害児保育園ヘレンや障害児訪問保育アニーの保育サービスを利用できたことで、心身にゆとりが生まれ、初めて介護でなくて子育てになったと、利用者の方が笑顔で言ってくださっている事実があります。

ええ。今日、実際ヘレンを見て、これは介護や療育じゃなくて「保育」だなと思いました。

普通の保育園と同じ、朝の会があってお歌があっていろいろな遊びがあって……。それから、2階には認可保育園が入っていて、3階には小児科や病児保育室まであって。障害のある子もない子も一緒に育ちあってる。子どもが、たくさんの刺激をもらえる場所ですね。

親御さんは仕事で疲れて帰ってきても、子どもが保育園でなにをした、これができたと聞くのは嬉しいだろうなあと思います。何よりも親の喜びですから。このことが、もっとひろがってほしいです。

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障害児保育園ヘレンで起きた奇跡。子どもは子どもの中で育つ

ーー障害児保育園ヘレンでお預かりをはじめるまでにかかる費用は1園約5000万円。全て我々の持ち出しとなるため、いろんな方から、たくさんの寄付をいただいてやっと、という状況です。ですから、ご支援、お気持ちが本当にありがたいです。

きょうのヘレンの見学で、それは実感しました。単純に、人も設備も通常の保育園の倍じゃきかないなと。それに、お子さんが笑顔でいい場所だなあと思いました。

ーー実は、その障害児保育園ヘレンでいっぱい奇跡がおきていて。

どんなことですか?

ーー胃ろう(お腹に穴を開け、食事のためのチューブを通すこと)で食事をしていたお子さんが、他の子が口からごはんを食べるのをみて、自分もやってみたいって思ったんです。スタッフは少しずつ少しずつ口から食べる練習をお子さんと試行錯誤していきました。結果、なんと胃ろうがとれたんですよ。

そんなふうに胃ろうなどの医療的ケアがなくなって、普通の認可の保育園に転園できた子もいます。そういった子は1人じゃなくて、今年の4月に4人も医療的ケアが必要なくなって転園しました。

それはすごい!その子たち、味を感じながら食べられるようになったんですね。それって、人生の選択の幅が広がったってことだから。素晴らしいことです。

人と触れ合うことって、やっぱり生きる力が増すんですね。自宅でずっと寝たきりという状況じゃ、可能性は薄かったかもしれない。やっぱり、光の当たらなかった障害児と社会とが触れ合う場所をつくることに、意味を感じます。

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ーー先は長いですが、確実に踏み出せた一歩かなと思います。社会にはいろいろな問題が山積していますが、障害児を育てる親の声もまだまだ遠い。子どもも声をあげられない。それって政治に反映されないんです。

だから、課題を知ってもらえたと同時に、スタートアップの段階でご支援いただけることは、とてもありがたいです。

ひと園5~15人って言ってましたよね。いま5園だから、50人くらいか……。子育て中の全ての人に頼れる場所はあるべきです。その中でも障害児の問題は、一番大きな問題。特に障害児保育は法律から抜け落ちているから。

ーー大倉さんのように先見の明のある方にはもちろん、一般の方も普通にこうした問題を知ってもらえるように頑張っていきたいです。

そうですよね。ただ、何ができるのかが分からない人が多いと思うし、知ってもどうすればいいかが分からないというのがあるんでしょうね。

発信側から選択肢を提示できれば、踏み出してもらえると思いますよ!ぼくも、微力ながら引き続き応援します

ーーありがとうございます。応援、心強いです!

<後編へ続く>

後編は社会課題を解決するのに必要な力、寄付を通じてフローレンスのようなソーシャルセクターの人々に託す思いをお伺いしました。

社会の底を支えるソーシャルセクターは「安心して暮らせる日本」への一筋の光明。ミステリー作家大倉崇裕氏が寄付をする理由
障害児保育事業を中心にフローレンスを「寄付」というアクションで支援して下さっているミステリー作家の大倉崇裕さん。11月某日、フローレンスの運営する複合型保育施設「おやこ基地シブヤ...

大倉氏の寄付のきっかけは「障害児の介護で離職せざるをえない母親が大勢いる」ことに対する疑問と憤りでした。

もしあなたにも「こんな社会になったらいいのに!」という想いがあれば、まずはワンアクションを起こしてみませんか。そして「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」というミッションに参加して下さるなら、フローレンスにその想いをどうぞ託して下さい。

必ず、皆さんと変化を起こしていきたいと思います。

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書いた人:柳瀬綾子


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