2016/08/19
千葉市の「姓のないメールアドレス」に「半径5メートルからの働き方革命」を見た
こんにちは。ハタカク(働き方革命事業部)の橋本です。
私の所属する仕組み革命チーム(システムや社内インフラを担当)の仕事のひとつに、社員のメールアドレスの管理があります。
フローレンスのメールアドレスには社員の姓が入っていて、ときどき「結婚して姓が変わるので、アドレスの変更をお願いします」という依頼が来ます。
メールアドレスの変更そのものは難しくないのですが、アドレスに紐づいた各種ツールの設定なども考慮しなくてはいけません。管理者が対応するだけでなく、アドレスを変更した本人もいろいろと設定をし直さなくてはならず、けっこうな手間がかかるのがちょっとした悩みのタネでした。
そんな折、こんなニュースを目にしました。
メールアドレス 名字やめました 千葉市、本年度採用職員から/女性職員チーム提案 | 千葉日報オンライン
内容としてはこんな感じです。
- 千葉市の2016年新規採用職員504人について、メールアドレスに名字を含めるのをやめた
- 新しいメールアドレスの命名規則は「名前+ランダムな数字4桁」
- 多様な人材活用のための「ダイバーシティ推進事業部」が提案した施策
「ダイバーシティ推進」も、ともすれば理念だけになりかねませんが、提言した内容がきっちりと実現していてとても素敵です。
どうもこれはフローレンスが目指す「半径5メートルからの働き方革命」の匂いがプンプンするぞ……ということで、千葉市情報システム課を訪問し、この施策を行った担当者の方にお話をお伺いしてきました!
荒井紀子さん
千葉市 市民局 生活文化スポーツ部 男女共同参画課 主査
各部署を横断する仮想組織であるダイバーシティ推進事業部に参画。今回のメールアドレスの命名規則変更を始めとした、女性活躍推進のための提言をまとめた。
自身も部分休業(短時間勤務)で働くワーキングマザー。
土肥昌行さん
千葉市 総務局 情報経営部 情報システム課 課長補佐
市の基幹システム等の開発や管理を担当。ダイバーシティ推進事業部からの提言を受け、メールアドレスの命名規則の変更を実施した。
リモート会議の導入など、柔軟な働き方の実現のためにさまざまな施策を行っている。
「キャリアの断絶感」を防ぐ新しいメールアドレス命名規則
-どういった経緯でメールアドレス命名規則の変更を行ったのですか?
荒井さん:2015年4月に、組織横断的な課題解決を目的として、仮想組織であるダイバーシティ推進事業部が発足しました。多様な人材の活用のための課題に取り組む組織なのですが、まず初年度である2015年度は、女性にスポットを当てましょうということになりました。
女性が働きやすくなるような提案はないか、ということを検討する中で、アイデアのひとつとしてメールアドレス命名規則の変更案が出てきたんです。
働く女性の中には、結婚等で名字が変わったときに、それまでのキャリアを断絶させてしまったように感じる方もいます。そういった問題が解決できるのでは、という発想です。
2015年9月に、市長への中間報告を行ったのですが、その際に、メールアドレス命名規則の変更なら大きな労力をかけずに実現できるのではないか、とコメントをいただいたので、先行して実施することになりました。
土肥さん:情報システム課では、2015年の11月ごろに、市長から「こういうことができないか」という連絡があり、検討に入りました。2016年4月までにということだと、時間もなく、予算もかけられないので、その範囲内でできることは何かということで検討しました。
千葉市の職員は7,500人ほどいますが、いきなり全職員のアドレスを変えるというのはなかなか大変で、外部の方とのやり取りもあります。一気に変えてしまうと、業務継続性の観点からも混乱が生じるのではという懸念もありました。
2016年4月入庁の新規採用職員のメールアドレス振り出しに関して、名字を使わないアドレスにするということであれば、すぐにでき、費用もかからなかったので、まずはそこから始めることになりました。
既存の職員については、アドレス命名規則の変更は未定です。「新しいアドレスに変えたい」という声も特にあがっていないですね。結婚等により姓が変わっても、旧姓を継続して使用する制度があり、これを活用する職員もいます。
-ダイバーシティ推進事業部はどういった組織なのですか?
荒井さん:ダイバーシティ推進事業部は、組織横断的な課題の解決、専門知識の共有による事業提案を行うため、2015年4月に新設された仮想組織です。
女性の働きづらさの解決やワーク・ライフ・バランスを実現するために、男女共同参画や人材育成など、それぞれの分野での知見を組み合わせて問題解決を目指そうということで、複数の部署から人員を集めて組織しました。仮想組織というのはそういう意味ですね。
メンバーは主事から部長までいて、去年は9名の女性職員で構成されていました。今年度は男性にも参加してもらおうと思っています。
目的は、性別や、障害などの身体状況の違いにとらわれない、多様な人材の活用を進めるための制度・環境の整備を行うことです。2015年度はまず女性活躍推進のための検討を行い、3月に「女性職員活躍推進のための提言」を策定しました。
ダイバーシティ推進事業部は、提言する力はありますが、実行する部署ではないので、実行は各所轄部署が担当するという流れです。今回のメールアドレスの件もそうですね。
ですので、あるべき姿を言いやすいというか、所轄部署のしがらみや現場の知識にとらわれなくてよいというのはありました。デメリットを気にせずに案を考えられるのはよかったです。
提言の内容がどのように実施されているかは、今後の活動の中で確認していこうと思っています。
ジェンダー(社会的性)はダイバーシティの試金石
-ダイバーシティ推進事業部が設置された背景を教えていただけますか。
荒井さん:ダイバーシティが重要だという考えは以前からありました。具体的なきっかけがあったわけではないのですが、その気運が高まってきて、昨年事業部を作ったという流れです。
先進国でも類を見ない少子高齢化社会を迎え、高度成長期以来の成長モデル、硬直的・画一的な「終身雇用・正社員・男性中心」の就労モデルは限界を迎えています。
この状況を打開するための目指すべき方向性として、女性・高齢者・若者・障害者など一人ひとりが能力を発揮していきいきと働く、全員参加社会と、そのためのダイバーシティ経営への変革が必要となっています。
ダイバーシティ推進の試金石となるのがジェンダー・ダイバーシティとインクルージョン(※)です。女性の処遇ができない組織に、多様な属性、価値観の尊重はできません。そこで、第一段階として、「女性の力」を最大限発揮できる社会をつくるための政策などについて検討を行い、提言を行いました。
※インクルージョン:「包含」「一体性」などを意味する言葉。組織や社会のなかで個人のさまざまな違いを受け容れることをあらわす概念。
-メールアドレス命名規則変更の他にも千葉市で実施された施策はありますか?
荒井さん:例えば女性の登用についてです。部分休業(短時間勤務)の取得者についても、積極的に登用しましょうということで、今年は、部分休業などを利用している職員が3名、主査に登用されています。
また、昨年からイクボス(※)の取り組みをしていたのですが、今年は管理職全員が「イクボス宣言」をすることになりました。
※イクボス:職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のことを指します(対象は男性管理職に限らず、増えるであろう女性管理職も)。(イクボスとは – ファザーリング・ジャパン イクボスプロジェクト)
-今後はどのような活動を予定していますか?
荒井さん:昨年、市内の企業や大学の代表など6者によるイクボス共同宣言を行ったのですが、今年は、その事業者さんと一緒にセミナーを実施したり、共同宣言1周年でイベントを行うことを考えています。
他には、国の機関や市内企業などで構成するダイバーシティ推進協議会を作り、市内のダイバーシティを推進したいと思っています。庁内でうまくいったことを市全体に広めていくようにしていきたいなと。民間のアイディアを参考にさせてもらいつつ、こちらのアイディアも使ってもらうようなことができたらいいですね。
いかがだったでしょうか。
お話を聞いていて印象的だったのは以下の2点です。
・小さなことから確実に始めていくこと
・当事者が中心となって推進すること
きっと、大きく抽象的なことだけを提言しても実現しないでしょうし、男性だけが集まって女性の活躍推進を語っても効果は低かったのではないでしょうか。
フローレンスでも「半径5メートルからの働き方革命」を目指しています。大切なのは、小さな取り組みをしっかり回し、伝え、「これなら自分たちにもできるかも」と思ってもらうことです。今回の千葉市の取り組みは、その意味でフローレンスの働き方革命のビジョンに通じるところがあり、とても参考になりました。
インタビューの最後にお話のあった、市と各事業者との連携についても、他の自治体にとってのモデルケースとなるような取り組みが生まれるといいな、と思います。
最後に、お忙しい中快くお話を聞かせてくださった荒井さん、土肥さん、どうもありがとうございました!
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