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アクション最前線

2019/03/26

障害があっても「自分らしく」生きることを支える:福祉団体 MEE【オランダ視察レポート4】

 


福祉が進んでいると言われるオランダ。

福祉が進んでいるとは、いったいどういうことなのでしょうか?ロボットが介護していたり、 病院がめちゃくちゃたくさんあったり……?

その実態を探るべく、地域で福祉活動を行う全国組織MEE(メイ)を訪問してきました。

※フローレンスでは2018年9月、オランダのシンクタンクや福祉施設に視察に行ってきました。視察の目的、またオランダの注目すべき社会背景などについては、こちらの記事をご参考に!

フローレンスがまた、オランダに視察に行ってきた理由【オランダ視察レポートその1】

市民のための福祉アドバイスと支援サービス組織 MEE(メイ)

MEEは、アムステルダム市など自治体から委託を受け、市民に福祉サービスを提供している団体です。

MEEというオランダ語は、英語ではwith。「一緒に」という意味をもつ単語が、団体名になっています。

名前の通り、知的、精神、脳神経、その他あらゆる分野の障害がある市民一人ひとりに寄り添い、 必要なサービスに繋げるというのが、MEEの役割です。

団体は約60年の歴史があり、アムステルダムでは市内に15箇所の支部を持っています。一つの支部で、一年間に約3000ケースの相談対応をしています。

市民の相談に乗り、福祉サービスを提供する役割は、日本でいうと社会福祉協議会に近いかもしれません。実際に話を聞いてみると、MEEの支援は、より目的がはっきりしており、支援方法もシャープでした。

そのため市民にとって、「どのような時にMEEに相談すればいいのか」「どんなことを提供してもらえるのか」というイメージがしやすく、より市民に身近な組織になっています。

具体的にどんな活動をしているか、その特徴を紹介します。

image2

MEEの特徴その1:インフォーマルさを意識した短期支援である

障害に関連して困りごとがある市民は、誰でも無料でMEEに相談することができます。

障害者本人はもちろん、家族や、時には障害者を雇用している企業から相談を受けることもあります。

その相談対応の特徴は、短期支援に役割を絞っているということです。

MEEに相談すると、まず相談窓口であるジェネラリストスタッフとの面談があります。まずはクライエントの状況を幅広くヒアリングするというのがポイントです。

福祉の専門職だと、最初からそれぞれの専門性の視点でアプローチしてしまいがちですが、それだと型にはまった支援に偏ってしまい、うまく行かないという課題意識がMEEにはあり、インフォーマルさを大事にしています。

その後、相談内容に応じて、専門性の高いMEEの中でのスペシャリストに振り分けられ、支援を受けます。

スペシャリストは、お金、仕事、住宅、教育、運動など、自治体が定めている重点項目に則って配置されています。

相談者はスペシャリストから情報提供や、スキルトレーニングなどのサポートを受けながら、長期支援先につながることを目指していきます。

たとえば、乳児検診にて子どもに障害があるかもしれないことがわかったお母さんは、病院から「次に受診が必要ですが、MEEの同行は希望されますか?」と聞かれます。

同行を希望すると、専門医の受診時にMEEのスタッフが同席し、その後どのような支援が必要か一緒に考え、その支援窓口につながるまで伴走してくれるそうです。

こういったプロセスの中でMEEが大切にしているのは、クライエント(相談者)に選択肢を提示し、本人が選択できるように支援すること。

クライエントは福祉の専門性が高いわけではないので、MEEのスタッフは「簡単な言葉」「具体的な言葉」「ビジュアルで表現する」などのコミュニケーションの訓練をしているとのことでした。

image1(イメージ写真)

特徴その2:地域コミュニティに深く入り込んでいる

MEEが活躍する自治体の一つであるアムステルダム市には、福祉の施策として「地域の横断的チーム」があります。

例えば「18歳未満の子ども」に対象を絞り、障害者福祉やソーシャルワークといった様々な分野に専門性をもつ福祉団体が情報共有をしながら市民のケアをしていく、といった取り組みです。

子ども支援のチームはOKT(Ouder Kind Team)と呼ばれ、MEEの他に学校職員、ソーシャルワーカー、ホームドクター(※)、訪問看護業者、その他ボランティアなどが参加しています。学校での相談、MEEでの相談など、いずれかの接点で、子どもに関わる問題が見つかると、OKTで情報共有され、そのクライエントをどのようにサポートしていくかの話し合いが行われます。

※オランダでは個人のかかりつけ医が決まっており、ホームドクターと呼ばれます

OKTで子どものことをよく見ていくと、その親も何かしら課題を抱えている場合もあります。そんなときは、「18歳以上の成人」をサポートするチームに情報連携され、そちらで親を対象としたケアが検討されます。

さらに、より包括的に地域の福祉をケアするWijkzorgnetwerkというチームもあり、必要に応じてそちらに情報が連携されます。

image8(視察中の説明の様子)

このように、地域に多層的に作られた福祉ケアの枠組みの中で、MEEも障害者福祉の分野から関わり、市民に深く寄り添っているのです。

特徴その3:被支援者が支援者になることも

MEEでは、障害のある人に対して様々なスキルアップ・トレーニングを行っています。

その中には、同じ障害を乗り越えた人が講師を担うこともあります。

例えば、ストーマ(人工肛門)のある女の子に対して、同じ障害のある大人が、どのように問題を乗り越えたかというアドバイスをしています。

このようにかつて「支援を受ける側」だった人がその経験を活かして「支援をする側」に回ると、クライエントの抵抗感が減るという効果が実際にあるそうです。

特徴その1にもあった、支援のインフォーマルさを大事にするのはこういった背景もあります。

MEEのスタッフの「どの人も、支援する側とされる側、どちらにも成り得る環境、それが本当のインクルーシブ社会」という言葉が印象的でした。

このような、「福祉の専門家」だけに寄らない支援体制が作れる理由の一つは、ボランティアとして支援に参画する市民がとても多いということです。

以前の視察レポートでも触れましたが、オランダには、パートタイムを中心とした「ワークシェアリング」の文化があり、仕事以外で使える時間を柔軟に作ることができます。それにより、仕事以外にボランティアに参加する人がかなり多いです。ボランティアをコーディネートする団体が活躍しており、ボランティアはオランダの地域福祉の大事なリソースとなっています。

image6(イメージ写真)

少し古いデータになりますが、2008年の調査では、オランダ人の37.1%がボランティアに参加しています(日本は24.7%)。年齢別では、35-44歳代が一番高く、48.8%の市民がボランティアに参加しているそうです。働き盛りの30、40代の約半数がボランティア活動を行っているということに、驚きを覚えます。

地域の福祉チームでの協働の方針を、どうやって合わせるか?

インフォーマルな支援を、様々な団体が一緒になって行う。それは具体的にはどのように行われているのでしょうか。

そんな説明の中で紹介してくれたのがこちらの資料です。

image7
一番左の列には、様々な支援の切り口が記載され、それぞれについて横に、青、黄、赤の色がついた列が並んでいます。

それぞれ、

青:インフォーマルなケア(そのうち、自分自身や身の回りの人ができること)
黄:インフォーマルなケア(地域でできること)
赤:フォーマル(専門的)なケア

を示しています。

かつて、フォーマルな福祉サービスが重要視されていた頃には、赤→黄→青という順番で支援を行なっていました。まず最初に、フォーマルな支援制度の利用を検討し、何らかの理由でそれが使えない場合などは、インフォーマルな支援に移る、というやり方です。

その結果、一人のクライエントに対して福祉サービス過剰となり、オーバースペックで非効率な支援となってしまいました。

それを、逆に青→黄→赤の順で何ができるか考えることで、まずは身の回りの人や地域で支援を行い、難しいものはしっかりした福祉の制度を活用する、という流れになり、クライエントの実態にあったケアが提供されるようになりました。

オランダの「信任の仕組み」を目指した制度変更

このように、福祉を必要とする人にインフォーマルなケアを提供できるようになったのは、MEEの尽力だけでなく、オランダの福祉制度の変更もその背景にあります。

2000年頃、オランダは福祉国家であり、施策は中央政府が決めていました。しかし、予算が膨れ上がってしまったことを機に、福祉については中央集権から地方分権となり、地方自治体がその責任者となりました。

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地方自治体は、緊縮財政のもと、お金をどう効率的に使うか考え、その中で、地域資源(本人、家族、地域の人々など)の活用、ボランティアの活用が重要視されるようになりました。

それまでは、クライエントに対して誰がどのようなサポートを提供するのかを、国(専門家)が認定していました。たとえば、「脳障害のある人には、知的障害のためのサービスを利用してもらいましょう」という具合に決まっていたそうです。当事者は、事業者から提供されるサービスを受け取るしかない状況でした。

地方に権限が委譲されたあと、専門家でなくても、本人とその周りの人が、福祉についての決定権を持つという法律ができました。専門家の認定ではなく、本人が実態に合わせたサービスを希望し、それをホームドクター等の専門家が認定すれば、そのサービスを使えるという仕組みです。

また加えて、新たに「個別ケア予算」(Persoonsgebonden budget、略してPGB)という制度が導入されました。

PGBとは、それまでのサービス現物支給と違って、当事者に現金が支給され、それを本人が選択したサービスに自由に支払えるというものです。

例えば、本人が希望すれば、家族に介護してもらい、家族に介護の対価を支払うことも可能になりました。それにより、家族も無理なく介護を続けることができます。

image9(イメージ写真)

本人の希望に沿って支援をしたら、支出が増えるのでは?と、思うかもしれませんが、実はこの制度は選択式で、PGB方式を選んだ場合は、「現物サービスを受けた場合に相当する費用の3/4の現金を使える」というもの。利用が広まれば、自治体のケア費用が減るのです。

また、MEEのスタッフによれば「本人や、本人をよく知る人の希望どおりに支援を入れると、問題が大きくなる前に、効率よく解決できるようになった」とのことでした。

この福祉改革の流れについては「不信から信任の仕組みに」と言われているそうです。「本人と周りの人が一番実態をわかっている」ことを信じることにより、大きな効果をもたらすことができる、というのは驚きのことでした。

フォーマルなケアを受けるという選択肢の前に、身内や地域の手助けを受けられる。そしてそこにMEEという窓口がいてくれる。そんな体制が、オランダでは作られているのです。

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さいごに

視察の中で、私達が、「MEEが目指すもの、MEEのミッションとは何ですか?」と聞くと彼らは

MEEの仕事は、クライエントが自分で選択できるように支援すること。

ケアの受け手、提供する側がお互いの立場を変えて考えられるようになることが、MEEの目指す社会です。

と答えてくれました。

「障害があってもなくても、自分らしく、自ら選択しながら生きていける」

フローレンスの目指すビジョンも同じです。

オランダの福祉の制度は確かに先進的ですが、制度そのものだけでなく、本人が決められるように伴走するきめ細やかなサポートと、そして何よりその根底に「適切なサポートがあれば、人は自分で決められる」という信念があることが、大切なのだなと実感しました。

ロボットが介護しているわけではなかったけれど、やはり進んでいたオランダの福祉の現場。

引き続き、ケアのあり方について、オランダから学んでいきたいと思います。

MEEのサイト(オランダ語)はこちら

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書いた人:小田結紀


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