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2023/06/23

僕たちはもっと「ライフ」の話をしようじゃないか【フローレンス男性育休座談会・最終回】

 


連載最終回!男性育休をめぐって、時代は動き始めた

半年間にわたり連載してきたフローレンス男性スタッフの男性育休座談会、とうとう最終回です!本連載では、「男性育休で『家庭の当事者になる』スイッチを押そう」、そんなメッセージを掲げ、男性たちが家事・育児の「サポーター」ではなく、「プレーヤー」になるためのスイッチはどこにあったのか?切替えたことで夫婦や家庭に何が起きたのか?そもそもなぜ男性が「プレーヤー」という意識を持ちにくいのか?総勢11名のスタッフが議論を続けてきました。

第1回「育休取得は僕たちが『家庭の当事者』になるためのスイッチだった」

→育児をめぐるクライシスに直面した経験、育児の話を分かちあえる喜びを味わった回

第2回「育休は家族の基盤をつくる時間であり、生き方まで変えてしまった時間だった」

→長期間育休を取得したことで、仕事人として家庭人として起きた意識変革を語った回

第3回「親ではない僕たちにとって親子や育児って『無関係』ですか?」

→育児経験の有無を問わず、育児の当事者と非当事者の分断を埋める視点を語った回

2023年4月から、従業員が1000人を超える企業では、男性の育休取得状況などを公表することが義務付けられました。その後6月に発表された経団連の調査では、驚くべき効果があらわれました。23年4月から5月上旬にかけて1500社余りを対象に調査し、278社が回答。去年1年間の男性の育児休暇の取得率は47.5%と、前年比で18.2ポイントも上昇したというのです。そればかりか、取得日数では平均で43.7日となり、大手企業を中心に「1か月以上」の割合が60%近くにのぼることが明らかに。長い間低迷していた取得率は今年に入り、大きな躍進を見せています。

しかし社会全体を見渡してみれば、社会的なしくみや空気がようやく動きだしたばかり。これからは個々の企業らしい、ひとりひとりの働き手らしい育休を思うままに取れることが「あたりまえ」になるよう、歩みを進めていく段階といえるでしょう。

最終回は過去3回を通して座談会のモデレーターを務めてきた「にゃむら」こと中村慎一と、フローレンスで人材育成を担当する「かず」こと陣内一喜が登場。二人が共通して学んでいるジェンダーの視点を通して、これまでの座談会を振り返り、男性育休を「あたりまえ」にするための、数々のアイデアを出し合いました。

最終回ならではの濃密な対話をぜひお楽しみください!


◆第4回座談会のメンバー

中村慎一(にゃむら)

40代前半。フローレンスでは赤ちゃん縁組事業部所属。三児の父。本座談会企画の発起人。フローレンスでマネージャー職を勤める傍ら、兼業作家としても活躍。男性育休、ジェンダー、保育園の多機能化などのテーマで取材対応やセミナー講師としても実績多数。みんなの溢れる思いをズバリ言語化してくれる駆け込み寺的存在。主な著書に『お先に失礼します! 共働きパパが見つけた残業しない働き方』(KADOKAWA刊/2017年9月)、『探偵先輩と僕の不完全な事件簿』(KADOKAWA刊/2019年2月)、『江の島ひなた食堂 キッコさんのふしぎな瞳』(KADOKAWA刊/2022年1月) など。

陣内一喜(かず)

40代中盤。フローレンスの人事部である「迎える育む」チームで人材開発・組織開発に従事。前職はシステム開発会社でエンジニアとして勤務。在籍中の2013年に子どもを授かり、1歳になる直前の3ヶ月間、育休を取得。その経験のなかで日本のお父さんの働き方、組織のあり方に課題を感じて、働き方革命を掲げるフローレンスに入社。コーチングやジェンダーなどから得た学びを職務に活かしている。現在子どもは10歳、不登校保護者としてパートナーとともに試行錯誤の日々。趣味は音楽で、社内イベントではたびたびステージにも上がる。

 

僕たちはなぜ、心の中を見せ合う対話ができないのだろうか?

にゃむら:かずさん、最終回にようこそ!まずはこれまでの座談会を振り返って、かずさんの印象に残っている言葉があれば教えてください。

 

かず:第1回目だと、夫婦で家事育児を分担すると、いつの間にか「どっちがどれだけやっているか?」というポイント概念にとらわれるようになったという話は共感しましたね。僕がそうだったんですが、家庭を取り回していくにあたって、最初は主導権のほとんどを妻が担って、夫が徐々にキャッチアップしていくスタイルが多いように思うんですね。出発点がそれだと、かなり男性ががんばらないとイーブンにならないということに悩みました。

にゃむら:「その解決策が男性育休だった」という話が第2回目にありましたよね。育休期間中に家事育児の基盤を最初から夫婦二人で構築できた方が、「家族全員で家庭を回す」意識からスタートできる。男性育休はそのための時間なのだ、という話は説得力がありました。

 

かず:家事育児をはじめとするケア労働を、この社会は長い間女性に押し付けてきた背景がありますよね。そのままの世界線を生き続けてしまったら、男性は永遠に女性にケアを求め続けてしまう。まずは女性が「ケア」にどれだけ人生を使っているかを注意深く見て、気づくべきなんですよね。

 

にゃむら:私のパートナーは、子どもたちのきょうだいゲンカの仲裁が本当に見事なんです。瞬間瞬間の子どもたちの感情をとらえて判断して、こじれないようにコミュニケーションする。私にはないOSを駆動させているとしか思えないんだけど、それってずっと「関係性のケア」を続けてきた証明なんだと思います。

かず:本当にそう。幼い頃から親との関係性ケアだって、男性は本当に無頓着。「こじれたら距離をとろう」というのが主流な気がしますよね

 

にゃむら:まさに!!距離をとって、なかったことにしたり、「超浅いコミュニケーションコード」でやり過ごして、人の感情を極端にシンプル化してきてしまったから、いつまでも複雑な感情を取り扱えない。これは情けないことです。

 

かず:この座談会の濃密な対話を読んでいると、僕たちは普段、圧倒的に「本当の声が聞けていない」ということも感じましたね。これまで触れてきた男性と育児をめぐる情報ってどこか一辺倒だなと思っていました。実は人や家庭によって多様なグラデーションのある話のはずなのに、あまりに男性の声のサンプルが少なすぎたんじゃないかって。

にゃむら:男性同士で飯に行ってもね、本当は深い話ができるはずの相手なのに、とりあえず「どう?最近?」みたいな、浅い交流から探り合っちゃうんですよね(苦笑)!あれは何なんだろう?別に、いきなり「聞いてよ!こないださ」って個人的な愚痴から入ってもいいのにね。

 

かず:分かるな~(笑)。僕の仮説ですけど、男性が個人的な話をするには、何かしらフォーマットのようなものが必要なのかもしれない。個人的な話、内面の話への耐性がないんですよね、だから「男」とか「社会」とか「仕事」という属性からくる固い「鎧」のようなものをまとったコミュニケーションが先行してしまうのかなって。

にゃむら:キーワード出ましたね、「鎧」!!本当にこれはやっかいもの。

 
 

かず:「鎧を脱いで話をしよう」という機会がもっと必要なんでしょうね。あとね、この鎧を崩しにかかってくる存在というのが本当に大事なんです。実は僕にとっては子どもってそういう存在なんです。20代のときにボランティアを通してたくさんの子どもたちと触れ合ったことが原体験で、そのときに感じた鎧を脱ぐことの爽快感が今の自分のあり方に繋がっています。

にゃむら:私はパートナーだったのかもしれない。自己肯定感が高いほうに振り切れている人なんですが、それに対して私が感情を出さずにいたり、我慢していたら危険!と、あるとき直観したんです(笑)。そこから自分の感情を言語化することを始めたので、最初は慣れなくて本当に苦労しました。

 

かず:コーチングでもね、自分の気持ちとか感情を感じたり気づいたりしてもらうときに、普段からそういう訓練ができていない人は、本当に出すのに時間がかかります。感情を出す筋肉みたいなものがガチガチに固まってしまうのかもしれない。トレーニングが必要な分野なんです。

 
 

男性育休がすべての人に「あたりまえ」になるためのアイデア

にゃむら:第2回目では、フローレンスの先輩たちを見て、自分の幸せとか人生で大事にすることについて、「自分なりのものさしを持ってていい」ということに気づいた、という話も心に残りました。男たちは社会の中で「良いとされている」単一のものさしを持って行動しがちなんですよね。既存のものさしで測りきれないなら、自分なりのものさしをつくればいい、それを自分の意思決定に使ったら、生きるの楽しくなりそう!と気づくことって、大事だなと思いました。

かず:その話の流れで「独身時代から育休の意義をフローレンスの先輩たちに散々聞いたから、絶対取ろうと思ってた」なんていう言葉もありましたよね。こと育休や働き方については、この「ロールモデルの存在」は本当に大事。夫婦の在り方とか子育ての在り方のヒントになるロールモデルがいるかどうか。当然納得できるロールモデルは人それぞれなので、ロールモデルが多様にいて、自分がいいなと思える人の話を聴ける、という環境が何よりの教育になるんじゃないのかなって思いました。子どもが生まれる直前や生まれてからアクションを起こすんじゃなくて、予定もない段階から、働き方、生き方を男性がもっと対話や交流のなかから考えるべきなんだと思うんです。

にゃむら:そして第3回目!まだ親ではないスタッフの対話はとっても刺激的だった。彼らは、若かった頃の私たちよりも、自分の感情を扱うことに長けているのかも、と羨望を感じました。

 

かず:めちゃくちゃおもしろい対話でしたよね。どんな人でも自己開示のタイミングをみんな探していることは事実なんだと思うんです。でも開示のタイミングは人それぞれなので、この「男性育休座談会」のように、第三者の呼びかけで「この場で、このテーマで、全部出そう」という場を設定することの可能性を僕は感じた。この形式って、さっき話していた男性が内面の話をする「フォーマット」になり得るじゃないかって。

にゃむら:仮に人生をワークとライフに分けたとき、この「ライフ」の部分について他者と対話したり意見交換をすると、他者のこともですけど、自分のことがめちゃくちゃよくわかるんですよね。かつて残業当たり前、男性育休なんて言語道断!みたいな旧時代的企業で働いていた20代の頃の私は、男性の同僚とライフの話をするなんて言われても、特に意味も感じず、「そんなの聞いてどうする?」と思っていた。

かず:それは……孤独!

 
 

にゃむら:本当にそう。でも孤独って自分の中を見なくていいし、表現する必要もないんですよ。自分自身の感情にスポットライトを当てない生き方。でもフローレンスに移ってきて、そこに交流が生まれた。この人たちなら聞いてくれるという安心感があって、もっと意見交換したい。孤独の殻を出て、心の中が晴れ渡ったような気持ちでした。

かず:やっぱり対話の環境は意図してつくらないとね!今の若い人たちはジェンダーの意識でいったら相当アップデートされているはずなんですよ。でも企業に入っちゃうと、企業の理屈で行動しなければいけない。でも彼らの感性は守るべきで、それが企業の中で座談会とか雑談の中で肯定されるというのもひとつの手だと思うな。この座談会を、もっともっと多くの企業や組織でやってみてほしい!すばらしい人材開発にもなりそう!そのファシリテーションなんて最高に楽しいだろうなあ(笑)!

にゃむら:それは私も大賛成!かずさんは会社とか組織の専門家だけど、私は「個人」の立場として提言できるとすれば、「『安住感』を感じたらすぐに疑え」と言いたい!これは昔の自分への戒めでもあります。第2回目の座談会でも、女性のケアに甘えて自分は家庭の当事者にならずに「安住」していた、という言葉がキーワードになっていました。

かず:自分が安住していることって、薄々自分で分かっているもんね(笑)。

 
 

にゃむら:そう!ずるいことに、「意識的に無意識っぽく」やっているんです。ジェンダーという構造上の特権に自分が乗っかっていることを知りながら。それは一時的に楽かもしれないけど、人生の醍醐味とも言える豊かな経験を実は捨てている。自身を振り返っても、本当にもったいなさすぎたなって思うんです。男性が主体的に成長していくためのトリガーはおそらく、「ライフ」にも、自分という主語を真ん中に置くことから始まると思います。

 
 

「家庭の当事者」の先に行き着いた、新しいパートナーシップ

にゃむら:私には3人子どもがいるけれど、一子と二子のときはそれこそ「男性の働き手」という役割に「安住」して「育休なんか取れないよ」という世界線で生きていました。三子のときに初めて半年間の育休をとって、すべての家事育児、予防接種の管理、子どものぜんそくフォローなんかも含めて全部自分が主担当、と決めてやっていました。

かず:命を一人で背負うというあの重さ、本当に経験しないと分からないですよね。

 
 

にゃむら:うんうん。三子が少し大きくなって、ぜんそくが治まっていたんですけど、私があるときすごく忙しくて、家の掃除がままならないときがあったんです。そしたらおそらくハウスダストが原因で久々に発作が出てしまった。そのときに、「この子をこんな目にあわせたのは自分だ」と深い罪悪感にさいなまれました。それは自分が「この子のぜんそくフォローアップの責任者だ」といった類の自負があるからこそ感じた罪悪感で。同じような思いを、パートナーには一子、二子のときに味あわせていたのかもしれない。それに初めて気づいて。その経験から、パートナーと子どものことについて同じ目線で話せるようになった気がしました。

かず:「夫婦がともに歩み始めた」ということなのかもしれないですね。

 
 

にゃむら:そうだといいな(涙)。最近では「ちょっと今、自分のコンディションだいぶ悪いから、いったん家事育児から離れさせて」ということも、罪悪感なく言えるようになってきました。例えば今日の夜は出かけたい、というときも、家庭人としてレイヤーの差があったときは罪悪感たっぷり!でも今は自然にイーブンなものとして言える。「今日はよろしく」って。

かず:さっきの夫婦間の「ポイント制」の話に戻りますね。そういう信頼感で結ばれると、わずかなポイントにとらわれずに、お互いのゆらぎも許容できるようになる。今この状況を相手が理解してくれているから、身を預け合える。でも僕もそれができるようになったのは本当に最近のことだな~。

にゃむら:ゆらぎを許容し合うって、まさに「ユニット」の感覚ですよね。個と個で言えばもちろんゆらぎはあるんですけど、ユニットとして見れば、何とかその日補い合えていればやっていけるじゃないですか。個のゆらぎがユニットに影響を及ぼすようなら、きちんとユニットとして対応しようという発想になりましたね。

かず:それが本来の信頼関係というものかも。あと子育てがおもしろいのは、完全に対象者のいる一大プロジェクトなので、ユニットでともに取り組むことで共通のビジョンを持てるんですよね。

 
 

にゃむら:10~15年前には、そんなことできていなかったかもしれない!昔は何者かになろうとしていたんです。いい父に、いい夫に、いい作家に!って。ただそうすると、いつも自分に納得していなくて、「次どうしたらいい?」という苦しさばかりが先行していました。でも今は感情を出して、鎧を脱いでいくと自分のことがよく見えてくるんです。そうなると、「何かになろう」としていた時代は自分の時間をいかに生きていなかったかがわかってきた。

かず:「何者かになろう」というなかに、「今ここにいる自分」は存在しないものね。

 
 

にゃむら:自分の軸足を意識的に「ライフ」に下ろして大きく変わったのが、他者に対する興味。何者かになろうとしているときは全然湧いてこなかった。人とのコミュニケーションを通して自分のことも合わせ鏡で知る。鎧の中じゃなくて、自分の生きるフィールドが自分と他者との関係性の中に広がることで、自由になっていたんです。今は誰と話しても楽しくなる予感しかない!人がいればいるほど、自分が楽しめる色彩もフィールドも広がるように思えます。

かず:僕の場合は、「何者」というゴールを目指すんじゃなくて、「旅でいいじゃないか」って思うようにしています。旅の中で起きることに向き合いながら自分の純度を高めていく、そんな人生もいいじゃないかって。僕も昔よりは自分のことも好きだし、鎧を着ている部分を脱いで人と関係できるようにもなってきた。それは個の成長だけど、そこにはパートナーシップや子育ては非常に大きな力やきっかけをくれました。自分で自分に対して納得するプロセスを重ねられていることはとても幸せなことです。うちは定期的に夫婦だけで外へ出てお茶を飲む時間をつくっているんですが、そんな気持ちもその時間に妻に伝えるようにしています。

にゃむら:分かる!その時間は大事ですよね。うちも最近、日曜の朝にモーニングを2人で食べに行く、ってのをやってるんですけど。生活の中でモヤモヤを感じたことはそこで話し合ったり。それで改めて思う、まだまだケア能力では負けてるなって(苦笑)。

 

かず:にゃむらさん大丈夫!まだ旅の途中だよ(笑)!


4回にわたってお送りしてきた「男性育休座談会」は今回で最終回となります。

育児のこと、家庭のこと、個人的な「ライフ」の話を通して男性たちがつながり合う。

誰かのライフの話は、自分のライフの話にも通じている。

この座談会は毎回そんな喜びや高揚感にあふれる場になりました。

男性育休を取りなさい、仕事も家事育児も、しっかりと担いなさい。

もしそんなことを一方的に言われたとして、誰が変わりたいと思うでしょうか?

誰でも「こんな未来になったらいい!」という希望のために変わっていきたい。

男性育休や家庭進出は、その希望のスイッチのひとつです。

スイッチを押しただけで、たちどころに人生は変わりません。

でもしばらく先の未来で見る景色は、格段に清々しいものに変わっているはずです。

フローレンスではこれからも「こんな座談会に、自分も入ってみたいな」と感じてくださる仲間を増やしながら、男性育休をあたりまえにするための歩みを進めていきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!



書いた人:酒井有里


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